2024年9月30日より、観光庁が「インバウンド消費動向調査」の個票データの提供を開始した。この新しいデータにより、インバウンド客やその消費行動を、従来の「集計結果」とは異なる多角的な視点から分析することが可能となる。観光庁は、このデータの活用を通じて、訪日外国人旅行者の消費傾向に関する多様な分析ができることを示し、積極的な利用を呼びかけている。
この発表を受け、インバウンド分野におけるデジタル戦略やマーケティングの支援を行うOnedot株式会社(本社:東京都港区、代表取締役CEO:鳥巣知得、以下Onedot)は、高付加価値旅行者に注目し、消費拡大や地方誘客を促進し、さらにはオーバーツーリズムの抑制を目指す「高所得者層分析」を実施した。
なお、今回提供が始まったデータは通年データではなく、「2024年4月から6月期」の個票データであるため、サンプル数が限られていることや、季節による影響、COVID-19による航空便や船舶便の復旧状況に差異があることが考慮すべき課題となるが、今回の分析が高付加価値旅行マーケティングに向けた貴重なヒントになることを期待している。希望者には、この分析に関するフルレポートが提供される。
さらに、国や地域別、訪問エリア別により詳細な分析も可能で、カーオーナーやパネルを活用し、富裕層特化型の調査も随時行われている。中国に関してはサンプルレポートも添付されている。

※1: 2024年8月30日観光庁プレスリリース《「インバウンド消費動向調査」の個票データを9月30日より提供開始します》
※2: 2024年9月30日観光庁《インバウンド消費動向調査個票データ利用の手引き》P5
※3: 観光庁では「高付加価値旅行者」を「訪日旅行1回あたりの総消費額が1人100万円以上」と定義している。
一方、今回のデータ(A1全国調査)では高付加価値旅行者の割合は2.1%にとどまっており、国別比較などでは統計的有意性を見出すことが難しいため、「世帯年収」を基準にした分析が行われている。

この記事の目次
- 1 ①年収10万USD以上は回答者の27%。20万USD以上は6%
- 2 ②高所得者比率は米国、英国、豪州、シンガポールで高め。実数では韓国・中国・台湾が圧倒的
- 3 ③高所得者の需要はタイパ重視。限られた時間で多くを楽しむための支出には惜しまない
- 4 ④一人、一日あたり消費額の最高は香港と中国で、平均4万円を超える
- 5 ⑤高所得者の性別や年代における特徴:欧米豪は「男性・若年層寄り」で、中国は「女性30-40代」
- 6 ⑥歴史・文化・テーマパークなどのコンテンツ消費が顕著に、特に欧米豪からの旅行者において
- 7 ⑦訪日回数が際立つ香港の高所得者。九州南部や四国への訪問も見られる
- 8 ⑧福岡に訪れる高所得層は多くが韓国からの短期旅行者?「飲食」への強い関心
- 9 ⑨飲食費の消費密度が最も高いのは「食の香港」。米国も同スコアで続く
- 10 ⑩交通費の消費密度は欧州が最も高く、長期滞在者の移動ニーズを示す
- 11 ⑪「タクシー代」の消費密度は中国がトップ、唯一タクシー支出が交通費の2割以上を占める
①年収10万USD以上は回答者の27%。20万USD以上は6%
今回の個票データ(A1全国調査)の8,379サンプル中、世帯年収10万ドル以上の回答者は4,476人、全体の27%を占めている。20万USD以上の層は476人(同6%)にとどまっている。なお、「無回答」または「無効」な回答も41%見られたが、他の回答結果では「無回答」サンプルは「10万ドル以下」のセグメントに近い結果を示しているため、この「27%(または6%)」という高所得者層が特に注目される対象である。

②高所得者比率は米国、英国、豪州、シンガポールで高め。実数では韓国・中国・台湾が圧倒的
国別・地域別にみた世帯年収の分布では、20万USDを超える層は米国、英国、豪州で特に多く、割合は10%を超えている。また、「10万USD超」も含めると、シンガポールも上位グループに位置することから、「英語圏」の訪日者に富裕層が多いことが見て取れる。一方、中国は比較的低い印象があるが、実は欧州や香港と同様の中堅グループに位置している。
「10万USD超」の比率を国別の訪日外客数(観光庁「訪日外客数」、2024年4-6月計)と掛け合わせることで実数でみると、韓国、中国、台湾が続き、この3国・地域で訪日高所得者の約6割を占めることが明らかになった。したがって、これらは極めて重要な市場である。

③高所得者の需要はタイパ重視。限られた時間で多くを楽しむための支出には惜しまない
世帯年収ごとの訪日経験を分析すると、「日本食」「日本酒」「旅館」「美術館等」「舞台等」「スポーツ観戦」など多くの項目において年収が高いほど多くの体験をしている傾向が顕著である。さらに、一人当たりの一日訪日消費額も、20万USD以上の層では10万USD未満の層の1.81倍に達している。
滞在日数が大きく変化しない中で、多くの体験を楽しむ傾向は「タイパ」需要とも解される。

④一人、一日あたり消費額の最高は香港と中国で、平均4万円を超える
高所得者(世帯年収10万USD以上)の訪日消費総額を一人あたり・一日当たりの平均滞在日数で計算すると、国や地域によって大きな差がある。
今回分析に含まれるエリアでは、特に「香港」が突出して高く、4.5万円に達した。「中国」は次いで、4万円で、他国・地域に対して1万円近い差をつけている結果となった。
台湾、ASEAN、欧米、豪州は「3万円前後」でほぼ横並びの結果であり、「韓国」は最も低い2.7万円近くにとどまっている。

⑤高所得者の性別や年代における特徴:欧米豪は「男性・若年層寄り」で、中国は「女性30-40代」
高所得旅行者の属性を見てみると、全体的には「やや男性寄り」で「30-40代」が大きな割合を占めている。特に中国では「女性30-40代(3割強)」が多いのに対し、欧米豪では「男性20-30代(4割弱)」が多いという傾向があるため、国や地域によるデモグラフィックの傾向を理解することが重要である。

⑥歴史・文化・テーマパークなどのコンテンツ消費が顕著に、特に欧米豪からの旅行者において
「訪日での活動内容」に関しては、どの国・地域においても、「日本食」はほぼ全員、「ショッピング」は約80%、また「繁華街訪問」も80%前後の選択率であり、これらは高所得者層にとって「訪日旅行における基本コンテンツ」と捉えられている。
しかし同時に「歴史・伝統文化」、「美術館」、「日本の生活体験」、「ポップカルチャー」、さらに「テーマパーク」など「経験消費」に関する項目も目立っており、特に欧米豪からの旅行者においてこれらのスコアが高く見受けられる。

⑦訪日回数が際立つ香港の高所得者。九州南部や四国への訪問も見られる
訪日回数に関しては、全体的に一般の訪日者と比較して訪問頻度が高い傾向があり、特に「6回以上」の訪問者に目を向けると、香港の多さが際立つ(68.4%)。香港の高所得者が訪れる都道府県には、他国/地域の訪問者がほとんど行かない「鹿児島」や「宮崎」といった九州南部、さらには「香川」や「徳島」など四国も含まれ、香港からの接触が拡大している。

⑧福岡に訪れる高所得層は多くが韓国からの短期旅行者?「飲食」への強い関心
滞在日数に関して、韓国からの高所得旅行者は特に滞在日数が短く、「3日以内」での訪問が3割を超える結果が出ている。一般層でも同様の傾向が見られるが、高所得者層でも「短期間訪問」をする傾向が顕著である。

⑨飲食費の消費密度が最も高いのは「食の香港」。米国も同スコアで続く
「訪日消費総額」の分解において、「飲食費」に関する国・地域の比較の結果、トップは香港が9000円弱となり、その食への関心度が伺える。
意外な結果として、米国が香港とほぼ同レベルで2位となり、他国・地域に対して1,000円以上の差をつけている。さらに、米国は「宿泊費」に関しても国別でトップに立っており、米ドルの高騰が背景にあるのではと推測される。

⑩交通費の消費密度は欧州が最も高く、長期滞在者の移動ニーズを示す
離島を除く「一人一日あたり」の交通費の平均額を集計した結果、最高は欧州で約4,600円、次いで香港が約4,000円となった。「一日当たり」で見ても欧州が高額になるのは、「日本まで来たから、色んなところに行きたい」というニーズが現れていると考えられる。実際に欧州からの高所得旅行者は平均で4.2都道府県を訪問しており、高い数字を記録している。

⑪「タクシー代」の消費密度は中国がトップ、唯一タクシー支出が交通費の2割以上を占める
「交通費」の項目は「航空券」「Japan Rail Pass」「新幹線」などに分類されるが、最近需要が高まっている「タクシー」の占有率を見てみると、中国は他国よりもタクシー支出の割合が高い(22%)ことがわかった。また、絶対額においても中国がトップに立ち、インバウンド観光地における中国/中華圏への対応がますます求められることになる。

【分析目的】
「高所得訪日者」の実態を国別及び「消費密度」から分析し、今後の高付加価値旅行者向けのマーケティング上のニーズや課題を明らかにすることを目指している。
【分析手法】
観光庁「インバウンド消費動向調査」の個票データによる集計分析が行われている。
【高所得訪日者の定義】世帯年収10万USD以上
出典元:観光庁プレスリリースおよび「インバウンド消費動向調査」