
2023年6月に、MMDLabo株式会社が15~69歳の男女7,000人を対象に「スーパーアプリに関する調査」を実施されました。そこで得られたスーパーアプリの認知度は23.4%と、とても低いです。
しかしながら、スーパーアプリの代表格であるLINEは日本国内でおよそ8割の人が利用しているというデータもあります。「スーパーアプリ」という言葉の認知度は低いものの、スーパーアプリは日常生活と共にあることがわかります。
本コラムでは、スーパーアプリの概念や数々の事例を含め、シンプルなアプリと比較した際のメリット・デメリットにふれていきたいと思います。
この記事の目次
スーパーアプリとは
スーパーアプリとは、「一つのiOS/Androidアプリの中で、さまざまな機能を持つ総合的なプラットフォーム」を指します。
例えば、Aという一種類のアプリのみをインストールし、会員登録をすることで、Aのアカウントを使ってAだけでなく、B、C...といったさまざまな機能を利用することができるというものです。

スーパーアプリの事例
最初にスーパーアプリとして注目されたアプリは、中国のチャットアプリ「WeChat」などです。こちらは2020年時点でMAU(月間アクティブユーザー数)が12億人に達しています。
WeChatは日本では馴染みが薄いため、国内で有名なアプリを例として挙げていきます。
国内の代表格・LINE
リリース当時のLINEの強みは、スマートフォンのキャリアを超えてチャットができることでした。しかし今ではLINEアプリを一つDLしてアカウントを作るだけで、チャットや電話機能だけでなく、音楽やニュース、ギフト・決済、各企業が提供する「LINEミニアプリ」などのさまざまなサービスを利用できます。
「LINEマンガ」など独立したアプリとしてリリースしている機能もありますが、LINE本体アプリだけでもさまざまな機能にアクセスできるのは利便性が非常に高いです。また、2023年10月1日にグループ内再編によって「LINEヤフー株式会社」になったことにより、さらに使用できる機能が増えました。
日本の人口の約半分が利用している PayPay
PayPayは、2018年10月5日にキャッシュレス決済サービスを提供開始してからわずか5年でアカウント登録済のユーザー数が6,000万人を突破しました。
消費者・事業者双方へのお得なキャンペーンの結果、決済アプリの代表格として普及しましたが、今では決済メインのスーパーアプリとして海外で先行するAliPayのように「ファイナンス」「保険」「買い物」「ふるさと納税(さとふるのミニアプリ)」など多彩な機能を搭載しています。
番外編:スーパーアプリ化を目指す X (旧・Twitter)
2022年10月にイーロンマスクがTwitter社を440億ドルで買収して、名称が「X」になりました。買収後、さまざまな機能が実験的に導入されたのはご存じの方も多いかと思われます。
また買収の際に、WeChatのようなスーパーアプリ化を目指すことにも触れており、下記のような機能がすでに導入されています。
- 有料プランの導入(今後は3つのプランができる見込み)
- クリエイター広告収益プログラム
- 音声通話・ビデオ通話機能
- AIチャットボット「Grok」(※2024年2月時点では国内未実装)
「シンプルなアプリを複数運用」の事例
スーパーアプリとは対照的な事例として、三井住友銀行の3つのアプリをご紹介します。
三井住友銀行アプリ
銀行本体のアプリでは、預金残高をファーストビューに表示し、口座ごとの残高表示やネット振り込み、および振り込みの際のワンタイムパスワード機能がアクセスしやすくなっています。
口座の振り込み・引き落とし履歴や総資産が確認しやすい一方で、クレジットカードの明細や「ポイ活」の情報は若干アクセスに手間がかかる設計となっています。
Vpassアプリ
主にクレジットカードの支払金額の通知に使われます。ファーストビューにクレジットカードの利用額とポイントが表示され、ワンタップで利用明細を確認できます。またフッターのナビゲーションに「お得情報」があり、ポイントを貯めやすいキャンペーン情報をたくさん並べています。
「ポイ活」には便利でメイン口座には履歴はすぐにアクセスできる一方で、VPassアプリ単体では資産全体を管理する設計になっておらず、「Moneytree」との連携が前提となっています。
Vポイントアプリ
デビットやクレジット、SMBC内の投資信託積み立てにより貯めたVポイントを1ポイント1円として使うことができます。
公式サイトでは「VPassアプリでポイント残高を確認し、貯まっていたらVポイントアプリにチャージしてApple PayやGoogle Payで決済ができる」と、VPassアプリとの併用を前提に書かれています。
これらの3つのアプリを使い分けるほうが便利か、スーパーアプリとして統合されたほうがいいのか?というところが論点となります。
スーパーアプリのメリット・デメリット
スーパーアプリとシンプルなアプリのメリット・デメリットにふれていきたいと思います。
スーパーアプリのメリット
① ユーザー数を伸ばしやすい
一つのアプリをDLすれば手軽に複数の機能を活用することができるため、何個もアプリをDLしてもらう必要がなくユーザーを獲得しやすいです。
ユーザーのメリットが多く、アプリをDLするハードルを低くできるという点は最大のメリットといえます。DLと同様に、会員登録や決済登録も一度で済むため、さらにアプリを使うハードルが低くなり、ユーザー離れを防ぐことができます。
② 収益性も期待できる
近年の各社の調査レポートでは、「消費者がアプリを使っている時間・アプリ経由での支出は伸びているが、よく使われるアプリは限定的」という傾向にあります。
スーパーアプリとして好感触であれば使い続けてもらえる可能性が高まり、滞在時間・収益も高くなる見込みがあるといえます。
スーパーアプリのデメリット
① 市場へ参入することが難しい
スーパーアプリとして事業を成立させるためには、メインの機能で圧倒的なユーザー数を確保する必要があります。
LINEはコミュニケーション手段として、PayPayは決済手段としてすでに日常的に普及しており、市場の独占率も高いです。そのような存在になるためには、開発力や企画・マーケティングスキルやITインフラヘの投資が不可欠となります。
② セキュリティ上のリスク
同一アカウントで複数の機能が利用できるということは、万が一アカウントを乗っ取られた場合、より多くのアカウント情報やサービス履歴(行った場所や買ったもの)などが第三者へ知られてしまうリスクもあります。
③ 使いづらくなったり、保守運用が大変になりがち
スーパーアプリは、たくさん機能が搭載されている分、「何がどこにあるのか」がわかりづらくなりがちです。
また、事業者には直感的に理解しやすいデザインが求められるほか、改修の際に連携する部分に影響がないかを調べつつ開発やテストを進めなければならないので、追加開発やメンテナンス作業も複雑になります。
これらの点についてさらに深堀りすると、下記のような論点になります。
【論点1】ユーザーにとっての便利さ
ユーザーにとっての便利さは以下のようなものがあります。
スーパーアプリ
- 1アカウントのログインでアプリ内のさまざまな機能を利用することができる
- 複数のアプリをDLする・アップデートする必要がないため、スマートフォンの通信容量を節約できる
- 新機能・ミニアプリが新しく追加された場合、既存の画面と設計が似ている場合も多いため、操作性がつかみやすい
一つのアプリでさまざまなミニアプリを使用する際、慣れ親しんだ画面や操作方法であると試しやすいのが心情ではないでしょうか。
「使い方がわからない」「新しいアプリの使い方を覚えたり、アカウント登録をしたりするのが面倒」という状況をなくすことで、休眠ユーザーになるのを防ぐことができます。
シンプルなアプリの併用
- アプリの動作速度が速くなりやすい
- 必要な機能にすぐにアクセスできるので、店頭で提示する場合なども使いやすい
必要な機能に的を絞って作られているアプリの方が、起動やメイン機能の動作が軽く、アプリ利用時にストレスがない点がメリットです。
サービスを利用しなくなったらすぐにアンインストールできるのも利用者側のメリットではないでしょうか。スーパーアプリの場合、さまざまなサービスと連携しているため、「まだ使うかもしれない」といった理由でアプリを削除できないパターンが多いかと思います。
【論点2】事業者側のやりやすさ
事業者側が得られるメリットは以下のようなものがあります。
スーパーアプリ
- 訴求できるメリットが多いため、DL数は稼ぎやすい
- コンテンツ投稿や広告宣伝について、プラットフォーム一つに対応するだけで済む
- どの機能が連動して人気があるのかなど、細かい視点での分析データを集めやすい
複数のアプリを並行して運営した場合、それぞれのアプリに対してコンテンツ投稿やユーザー数を伸ばすための施策が必要になるため、手間と運用コストがかかります。ですので、スーパーアプリのほうがユーザーを集めやすい傾向にはあります。
一方で、機能が多い故に、コンテンツ管理や分析などが複雑になることは否めません。
シンプルなアプリの併用
- ユーザーの需要を把握しやすい
- 独立した部署・組織で運用しやすい
- ノーコードパッケージなどで初期費用を抑えてスモールスタートをしやすい
シンプルなアプリであれば、MAUやアクティブ率を見るだけでユーザーの需要がある程度把握でき、分析がやりやすくなります。
また、スーパーアプリではアプリ運営に関わる複数の部署が密に連携する必要があるため、部署ごとや機能ごとに分けてそれぞれがアプリを制作管理したほうが運用しやすくなる場合もあります。
予算組み・事業計画で考えるべきこと
スーパーアプリとシンプルなアプリは特徴が異なるため、予算組みと事業計画で必ず考慮しなければならないことがいくつかあります。
スーパーアプリ
スーパーアプリは複数の機能を持ち、さまざまなシステムと連携するため、シンプルなアプリよりも開発費用・保守運用費用が高くなります。
スーパーアプリ化を前提で事業計画を立てる場合、初期費用を抑えたノーコードパッケージでのアプリ構築は推奨されません。運用開始後のカスタマイズ性を重視して構築し、ある程度のイニシャルコストを確保する必要があります。
また、認知度・ユーザー数が高いことが前提なので、運用・広告宣伝のコストおよびリソースも確保しておく必要があります。リリースから数年は赤字を前提として投資を先行し、長期的に回収・黒字化を見込む事業計画も求められます。
シンプルなアプリの併用
シンプルなアプリのほうが、構築・保守ともに費用は比較的安くなります。ノーコード開発・ローコード開発のプラットフォームを活用することで、初期費用は大幅に削減できます。
一方で、それぞれに保守運用費用がかかるのはもちろんですが、アプリごとにDLしてもらう施策・リピートしてもらう施策が必要になります。「なんでもできるアプリ」に比べると「これをやるためのアプリ」ではユーザーへの訴求力が弱くなるので、宣伝・マーケティング施策には工夫が必要になります。
まとめ
これまでスーパーアプリの背景や事例を交え、シンプルなアプリと比較した際のメリット・デメリットをまとめていきました。
スーパーアプリとして構築する場合のポイント
- 利用頻度の高い機能を含ませて、その機能で大きなシェアを取ること
- マスに普及するまで耐えられる企業体力(資金・社内の理解など)が必要
- スケーラビリティを意識した初期設計が重要
- 複数の機能を横断して利用するようなユーザー・セッションの分析ができる体制も欲しい
シンプルなアプリを複数構築する場合のポイント
- アプリごとにユーザー獲得・定着の施策が必要になる
- ノーコード/ローコード開発などで初期費用を抑えて「お試し」でスタート可能
- 異なる部署や組織で業務を切り分けて運用する場合はアプリも分割することが多い
スーパーアプリ化を目指すXでは、広告収入は回復傾向にあるそうですが、「機能や有料プランがごちゃごちゃしてわかりにくくなった」「レイアウトや機能名称の変更に違和感がある」といったユーザーの声も見受けられます。
このように、アプリを制作するにあたって「なんでもできるアプリか、シンプルなアプリの併用か」という点はどちらが正解というわけでもなく、この議題は永遠に繰り返されている問題なのです。
合同会社バックアップでは、ノーコード/ローコードでアプリを構築しながら受託開発のように柔軟にカスタムも可能な自社プラットフォーム「Pasta」を展開し、アプリ開発に対する幅広いニーズに対応しています。
要件に応じてカスタム性の高いパッケージ提供からフルスクラッチ開発まで幅広く対応しますので、アプリの新規開発やリニューアルをお考えの際はぜひ一度お気軽にご相談ください。
◆Pastaについての詳細・お問い合わせはこちら
https://backapp.co.jp/pasta-app/
◆この論点についてより詳しい記事はこちら
https://backapp.co.jp/blog/13006
合わせて読みたい