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顧客行動が変わり、誰もがECを使える時代。自社の強みを生かすチャンスに
ECに興味があり、全国の人に自社の商品を知ってもらい、顧客を増やしたい。そんな中小企業が増えています。新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、多くの企業は店舗集客に悩み、ネットを活用した集客の重要性を理解し始めました。
私は、大手小売会社4社でEC領域における戦略や運用改善の経験を積み、2019年に独立して小売以外の幅広い業界でEC領域のプロジェクトに携わっています。今回「ECを始めようか迷っている」という中小企業に向けて立ち上げのポイントと成功のコツをお伝えいたします。

店舗販売中心の事業をされている方の中には、ECをやるべきか迷っているという方もいるかもしれませんが、私個人としては「市場ニーズがある商品であればやるべき」だと考えています。
既に国内でも顧客行動が変わり、ECが急速に普及したことで老若男女のECリテラシーが向上しています。また、世界のEC市場は伸びており、日本のフルフィルメント(ECで商品が注文されてからエンドユーザーに商品が届くまで必要な業務全般)
の質が世界トップレベルであることを考えれば、むしろ国内のEC市場はもっと伸びる余地があるのではないでしょうか。
全国、全世界の顧客がわざわざ店に行かなくても購入できるのですから、自社の事業、商品が選ばれる強みがあるのであれば、それを生かすべきだと思います。
ECを始める中小企業が踏むべき4つのステップ
1.ECに取り組む前にやるべき「自社の強み探し」

ECを始めようとしたときに最初にやるべきことは「自社の強み探し」です。市場が伸びている、世界中から買えるということは、それだけ多くの競合がひしめいているということでもあります。
競合や他社の商品売上の情報収集をしながら、自社の強みを明確にすることで、EC売上拡大のシミュレーションがしやすくなります。何となく流行っている、始めた方がいいという理由ではなく、「自社が顧客に自信を持って届けられる理由」を経営陣や担当者が同じ言葉で理解しておくことが重要です。
例えば、私がプロ人材として登録するサーキュレーションとのプロジェクトで出会ったクライアントA社では、ライフイベント関連の事業をしていたため、獲得した顧客情報を活用して、個々人に合わせて様々な商品提案ができるという強みがありました。EC構築によってその強みを生かして継続的に売上拡大を目指すため、私がPMとして構築サポートを行い、リリースすることができました。
またこのとき、誰に対してECサイトを作るかが重要です。強みを持っていても、対象が異なれば訴求方法が全く変わることがあります。
自社の強みの言語化、そして誰に対してサイトを作るのか。この2つはプロジェクトが始まったらすぐにメンバーと経営陣間で共有が必要です。
2.パートナー選びは予算よりも担当者の見極めが最優先
ECの方向性がイメージできたら、自社で開発しない限りは外部のパートナーが必要です。
このとき私が最も大切にしているのが「担当者が信頼できるかどうか」。よく予算が厳しいなどの理由から価格で選ぶ人がいますが、実は予算は意外と柔軟に対応してもらえる可能性もあります(月額費で対応してもらうなど)。むしろ、はじめから価格だけで安すぎるパートナーを選ぶと、別途システム開発が必要になったり、プロジェクトが中途半端に終わってしまったりと、やりたいことができないままだということもあります。慎重に信頼できるパートナーを見極めましょう。
実績が豊富な大手のパートナーを選ぶ際は、担当者によってプロジェクトの進め方も変わるため、企業だけでなく担当者の見極めも肝心です。私なら、担当者のこれまでの実績や、現在プロジェクトを抱えている量などを質問して、どのくらい信頼してお任せできるのかを確認します。私の周りにはEC関係の知り合いも多いため、第三者にその会社や担当者の評判を聞いたりもできるため、先述のクライアントA社など支援先企業のパートナー選定でもそうした客観的評価を基準に見極めています。
いずれにしても、任せっぱなしでは上手くやりたいことも伝わらず失敗しやすくなるため、準備期間も、プロジェクト開始後も、担当者とは定期的にコミュニケーションを取り、プロジェクトの進捗状況や、方向性の認識を最新のものにしておくことをお勧めします。
3. 商品部とEC担当者が連携して、顧客に魅力を伝える方法を検討する

ECのパートナーが決まった後は、どんなサイト設計にするかを考えます。顧客に商品を買ってもらうためには、サイトを訪れ、商品に魅力を感じてもらい、人によっては他の商品と比較検討した上で、カートから購入するという行動を起こしてもらう必要があります。
顧客が買いやすいサイトを作るためには、以下の5つをよく吟味することが必要です。
① クリエイティブの見せ方
② 商品情報・訴求する強みの伝え方
③ 買いやすい売り場(決済、会員登録等)
④ 価格設定
⑤ 顧客のメリットや、課題解決となる要素の伝え方
また、EC担当者が独断で決めるのではなく、商品を詳しく理解している商品部とも連携すれば幅広いアイデアや仮説が見えてくるため、このフェーズからは部署横断型の会議体にすることもお勧めです。
最初に分析した「自社の強み」が顧客に伝わるかどうかは、このステップで十分に情報を検討し、客観的な仮説を立てられるかで変わってきます。サイト設計の精度を高めるために、経験豊富な外部のプロ人材から他社のケーススタディや経験則を聞いて参考にするのも手段の1つです。
4.ECが動き始めたら結果を分析
実際に商品が並び、ECが稼働し始めた後は必ず定期的に結果を振り返り、改善を重ねていきます。主に分析するのは以下の3つを基本とします。
① 行動分析
顧客の流入経路、サイト内動線、離脱ポイントなど
② 結果分析
EC全体の売上分析
③ 顧客目線のヒアリング
社内や社外の第三者に課題をヒアリング
特に、顧客目線のヒアリングは部署内だけでは視点が偏る可能性があるため、他部署や知人、知見を持ったプロ人材などに率直なヒアリングを行うと有益な改善点が見つかりやすくなるのでお勧めです。
ECの成否を分けるのは「戦略」よりも「組織の実行力」
1.経営陣と現場、店舗とEC部門の連携が重要
初めてECに挑戦する企業が悩むのが「在庫問題」ではないでしょうか。企業が持っている在庫を、店舗とECでどのように分配、調整するのかは、避けて通れない検討事項です。在庫の扱いだけではなく、ECの売上実績への貢献度をどう評価するかなど、人事評価制度も整える必要があります。店舗とEC部門がお互いに牽制し合わないような評価の仕組みを作ることで、全社が一丸となって事業成長を目指しやすくなるため、地道ですが中長期的には大きな影響を与えます。これはECの担当者だけでは実現が難しいため、経営陣が率先して取り組むべき仕事です。
しかしながら、こうした人事評価制度に関する提言を部下から上申することが難しい場合もあります。そんなときこそ、外部プロ人材が「ECを成功させるために」と上申役を買って出るべきだと思っています。自身の経験や支援先企業の成功事例失敗事例などの豊富な実体験を根拠に、経営陣に向けて最適な組織体制について提言してもらうことで、社内では進めづらい変革を後押しすることができるかもしれません。
ECのプロジェクトを進める上でも、組織内連携が取れているか否かは改善スピードに大きく影響してくるため、ぜひ今一度自組織を見直してみてはいかがでしょうか。
2.担当者がビジネスへの強い執着を持っているか

ECはオンライン上に集まったデータを分析する業務のイメージが強く、クレバーな印象を持たれがちかもしれませんが、戦う場所がリアルからオンラインに移っただけで、ECも立派な「商い」です。少しでも多くの人に、少しでも多くの商品を買っていただきたいという熱意、商売魂がなければ、当然事業は拡大していきません。
「なぜ売れないのか」「もっとこうすれば売れるのではないか」など、ECの業績について常に考え、改善策を実行できる担当者が必要です。例えば、店舗で店長をしていた経験のある方や、商品を売ること自体が好きな人が向いていると思います。
今はECに参入する企業も多く、ユーザーのリテラシーも数年前よりも格段に高まっています。つまり、オンライン上でユーザーが様々な商品を選べるようになってきているのです。競合は全世界に広がり、その中で自分たちを選んでもらうために、あらゆる手を尽くして売ろうとする気概を持った担当者がいれば、例え最初つまずいたとしてもその後の改善スピードを速めて伸ばしていくことができるでしょう。
3.外部人材には気兼ねなく即相談・経営陣への橋渡し役を依頼
初めてECに挑戦する、あるいは社内に知見が不足しているという企業が外部のプロ人材を活用することもあるでしょう。今はプロシェアリングなど、専門性の高い人材とすぐ出会えるサービスもあります。私は実際に外部の人間として多くのECプロジェクトに関わった経験から、外部人材が入って成果を出しやすいプロジェクト体制について、次の2点が重要だと思っています。
① 打ち合わせの場以外でも、すぐに質問や相談をして軌道修正を早める
② 計画通り進んでいない場合、外部人材を巻き込んで経営陣の説得などに動く
社外の人材だからといって遠慮をしてしまうと、プロジェクトの進捗が遅れるなど本来のゴールが達成できなくなるかもしれません。先ほど書いた通り、あらゆる手を尽くして成果を出す担当者として、社内外の人間は積極的に、貪欲に巻き込んでいくべきです。
EC担当者は店舗とECのトレンド把握が仕事

EC、広く言えばデジタルとリアルの物販の世界は日々進化しています。私自身も経験を陳腐化させず常に情報を最新にしておこうと心がけています。
もしあなたがEC担当者となったら、ぜひ普段からモノをとことんECで買ってみてください。自分の関わる業界の動向の「リアル」を感じることが重要です。新聞やニュースに出たり、記事になったりするようなことは過去のことがほとんど。例えば新宿や銀座など、街を歩き、店舗で実際に行われているキャンペーンや値引きをチェックしたら帰ってネットで同じサイト、商品を探してみるということが、競合他社の販促活動や顧客行動の仮説を立てるきっかけとなり、自分の経験として理解することに繋がります。
ECの魅力は様々なデータを元に結果を分析し、改善に繋げやすい点だと思います。分析結果を元にもっと売れるための仮説を考えることができ、売れたときにはそれがデータにわかりやすく表れます。
忘れてはならないのが、ECはあくまで企業と顧客を繋ぐプラットフォームの1つであるということ。顧客に求められることを考え抜いて改善していく営みが大切です。皆さんも日々進化するツールを駆使し、自社の魅力を顧客に伝えるECに、ぜひ挑戦してみてください。