
マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本代表:岩谷直幸)は、AIエージェントが消費者の購買行動および小売・EC企業の競争環境へ及ぼす影響について分析を行った最新ホワイトペーパー「エージェンティックコマースにおける自動化の進み方」を公開しました。
現在、AIエージェントは既に消費者の選択肢の整理、買い物かごへの商品投入、トレードオフの整理、買い物に関する意思決定のサポートといった役割を担っています。
今回公開されたホワイトペーパーでは、AIエージェントが購買プロセスのどの範囲まで担うようになるかを「エージェンティックコマースの自動化曲線」として体系化しています。自動化の進展は一律ではなく、商品カテゴリー、購入価格、後悔の可能性、消費者がどの程度判断を委ねたいかといった要素によって異なることが示されています。
同社の分析によれば、保守的なシナリオであっても、2030年までにAIエージェントが世界の消費者向け商取引の約3兆〜5兆ドルを仲介する可能性があるとのことです。AIエージェントは、検索や比較に留まることなく、購入候補の組み合わせ、条件確認、発注、代替品の提案、さらには複数サービス間の調整まで担うようになると予測されています。
このホワイトペーパーは、Deepa Mahajan氏、Hannah Mayer氏、Katharina Schumacher氏、Roger Roberts氏、Katharina Giebel氏の共著で、QuantumBlack, AI by McKinseyの見解をまとめたものです。日本語監訳は、児島愛子氏(パートナー、東京オフィス)が担当しています。
この記事の目次
「自動化曲線」が示す、買い物の6つの変化
リリースに添付されている図表では、エージェンティックコマースにおける自動化の進展が6段階で提示されています。重要な点は、自動化が「低いレベルから高いレベルへ一直線に進む」のではなく、カテゴリーや人との関わり方に応じて、委ねられる範囲が変化する点です。
図表において、AIエージェントの役割は以下の6段階に分類されています。
レベル0:設定した条件に従って自動的に処理される仕組み
コーヒー豆や日用品の定期配送のように、事前に設定した条件に基づいて補充や配送が自動実行される段階です。利便性はあるものの、判断や文脈の理解はほぼ含まれません。
レベル1:判断を助ける
AIエージェントが商品情報を収集し、比較や候補の整理を実施する段階です。例えば、ノイズキャンセリングヘッドホンを複数比較し、音質、バッテリー性能、装着感の違いをわかりやすく提示します。購入の判断は引き続き消費者自身が行います。
レベル2:選んでまとめる
AIエージェントが、購入可能な形式で商品やサービスを組み合わせ、買い物かごに入れる直前の状態まで準備します。旅行の場合であれば、フライト、ホテル、アクティビティを組み合わせて、予約前のプランとして提示します。ここから、AIは単なる比較ツールではなく、購買体験全体を組み立てる存在へと進化します。
レベル3:条件を決めて任せる
消費者が事前に価格、配送日時、販売者、カテゴリーなどの条件を設定し、その範囲内でAIエージェントが購入を実行する段階です。例えば「指定した食品が200ドル未満で金曜に届く場合は注文する」といった使い方が想定されます。条件から外れるケースのみ、人への確認が入ります。
レベル4:方針に沿って継続的に運用する
AIエージェントが、単発の買い物ではなく、継続的な方針に基づいて補充や調整を実施します。例えば、年間を通じて最小コストで航空会社のステータスを維持し、予約変更まで自動実行するといったケースが考えられます。
レベル5:エージェント同士で進む取引
将来的には、消費者のエージェント、小売企業のエージェント、決済、配送、保険、電力などの専門エージェントが連携し、条件のすり合わせや契約変更を自律的に進める可能性があります。人の関与は最小限となり、購買や契約は複数のAIエージェント間で処理されるようになります。
この図表は、AIエージェントの普及によって「買い物が完全に自動化される」と単純に解釈するのではなく、どの購買領域で人が関与し続け、どの領域で自動化が進むのかを見極めるための枠組みとなっています。
日用品や食品、消耗品のように繰り返し購入され、後悔の少ないカテゴリーでは自動化が進みやすい一方で、高級品や人生の節目に関わる買い物など、自分らしさや納得感が重視されるカテゴリーでは、人の判断が残り続ける可能性があります。旅行、家電、家具のように比較要素が多いカテゴリーでは、AIエージェントが候補整理や組み合わせを担いつつ、最終判断は人が行うといった「選択的な自動化」が進むと考えられます。
小売・EC企業に迫られる「機械に選ばれる」競争
AIエージェントが購買の入り口となると、小売企業にとっての競争環境は大きく変化します。
これまでは、検索結果、広告、店舗体験、ブランド認知、レビューなどを通じて、人の注意を引くことが重要とされてきました。しかし、AIエージェントが商品を探し、比較し、購入候補を組み立てるようになると、企業は「人に見つけてもらう」だけでなく、「エージェントに正確に理解され、選ばれる」必要が生じます。
そのためには、商品カタログ、価格、在庫、配送条件、返品ルール、ロイヤルティプログラム、プロモーション条件などを、AIエージェントが読み取り、比較し、処理できる形式で整備することが不可欠になります。
自社の商品やサービスがどれほど優れていても、情報が機械可読でなければ、AIエージェントの候補に入らない可能性があります。今後の小売・EC企業には、マーケティング表現だけでなく、構造化されたデータ、API連携、透明なルール、説明可能な条件設計が求められることになります。
主なポイント
- AIエージェントは、検索や比較だけでなく、候補の組み合わせ、買い物かごへの投入、条件確認、発注、代替品提案まで担う存在になりつつあります。
- 保守的なシナリオでも、2030年までにAIエージェントが世界の消費者向け商取引の約3兆〜5兆ドルを仲介する可能性があります。
- エージェンティックコマースの自動化は、0から5までの6段階で整理できますが、すべてのカテゴリーが同じように高い自動化へ進むわけではありません。
- 日用品、食品、消耗品など、繰り返し購入され、後悔の少ないカテゴリーでは、自動化が進みやすいです。
- 高級品、ファッション、人生の節目に関わる買い物などでは、人が調べ、比べ、納得して選ぶ体験そのものに価値があるため、自動化は途中で頭打ちになる可能性があります。
- 旅行、家電、家具などでは、AIエージェントが比較や組み合わせを支援しつつ、重要なトレードオフは人が判断する「選択的な自動化」が進むと見られます。
- 小売・EC企業は、商品情報、在庫、価格、配送、返品、プロモーション、ロイヤルティなどを、AIエージェントが理解・処理できる形式で整備する必要があります。
- 今後は、消費者の注意を引く競争に加え、AIエージェントの判断基準に適合し、継続的に選ばれるための競争が本格化します。
日本企業への戦略的示唆
日本の小売、EC、消費財、旅行、金融、物流、決済関連企業にとって、エージェンティックコマースは単なる新しい販売チャネルではありません。顧客接点、データ設計、価格戦略、在庫管理、ロイヤルティ、ブランド体験を横断して見直すべき構造変化と位置付けられます。
特に日本市場では、購買体験の丁寧さ、信頼、配送品質、アフターサービス、会員制度などが競争力の源泉となってきました。AIエージェントが購買判断に介在するようになると、こうした強みを人間だけでなく、AIエージェントにも理解できる形式で提示する必要があります。
例えば、配送の正確性、返品のしやすさ、代替品の妥当性、ポイントや会員特典の適用条件、サステナビリティ情報、商品の品質保証などは、今後、エージェントが購買判断を行う際の重要な材料になります。
企業にとって重要なのは、すべてを自動化することではありません。自動化によって顧客の手間を減らせる領域と、人が関わることで価値が高まる領域を見極め、カテゴリーごとに最適な顧客体験を設計することです。
マッキンゼー・アンド・カンパニーについて
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、グローバルに展開する経営コンサルティングファームとして、企業および公共機関の重要課題解決を支援しています。産業横断的な知見と高度な分析力により、クライアントの持続的成長と変革の実現に貢献しています。
出典元:PR TIMES












