株式会社帝国データバンクが実施した新卒社員の初任給に関する企業アンケート調査により、2026年4月入社の新卒者に対する初任給の動向が明らかになりました。
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調査結果のポイント
2026年4月入社予定の新卒社員に対して支給される初任給を前年度比で引き上げると回答した企業は67.5%となり、前回の調査(2025年度、71.0%)と比較すると若干減少したものの、引き続き約7割という高い水準を維持しています。初任給引き上げの主な要因としては、人材の確保や定着率向上を目指す企業戦略に加え、最低賃金の上昇に対応する必要性やベースアップの実施が挙げられています。引き上げられる金額の平均値は9,462円で、前年度の9,114円を上回る結果となりました。初任給の金額帯別の分布を見ると、「20万円から25万円未満」の層が全体の6割を占めて最多となり、「25万円から30万円未満」の層も約2割近くまで増加しています。
今回の調査は2026年2月5日から2月9日にかけてインターネット上で実施され、1,541社から有効回答を得ています。
約7割の企業が新卒初任給の引き上げを実施
2026年4月に入社する新卒社員への初任給を前年度から改定するかについて質問したところ、初任給の引き上げ有無について回答した企業のうち、「引き上げる」と答えた企業の比率は67.5%で、前年度と比べて3.5ポイント低下したものの、依然として約7割という高水準を保っています。その一方で、「引き上げない」と回答した企業は32.5%となり、3割台に上昇する結果となりました。


初任給の引き上げを決定した企業からは、「人材の確保とインフレへの対策を目的として実施した」(メンテナンス・警備・検査業)といった意見が寄せられています。また、「物価高騰により経営状況は極めて厳しいものの、人材不足という課題に直面しているため、人材確保を目的として引き上げを決断した」(建設業)というように、厳しい経営環境に置かれながらも、人材確保のために対応せざるを得ない企業が相当数存在することが判明しました。さらに、「賃金テーブル全体でのベースアップを実施したことに伴い、初任給も上昇した」(機械・器具卸売業)といったコメントも集まり、賃上げの流れが加速する中で、ベースアップの実施が初任給引き上げに波及したケースも確認されました。
一方、初任給を引き上げないと決定した企業からは、「引き上げたい意向はあるものの、既存社員との賃金バランスを考慮すると実現が困難である。既存社員に対して大幅な賃上げを実施する体力が不足している」(飲食料品・飼料製造業)という声が上がっています。「中小企業は物価高騰による影響を強く受けており、対応することが難しい」(その他サービス業)との指摘もあり、既存社員の給与が新入社員を下回る「逆転現象」への懸念や、賃上げの余力が乏しい実態が浮き彫りになりました。その他にも、「初任給は2025年度に引き上げを実施したため、2026年度は据え置く予定である」(化学品卸売業)と、前年度の引き上げを理由とする企業も一定数見られ、全体として対応に苦慮する企業の姿が明らかになっています。
「初任給を引き上げる」と回答した企業の割合を企業規模別に分析すると、「大企業」は65.6%(前年度比4.0ポイント減)、「中小企業」は68.2%(同3.2ポイント減)と、いずれも6割台後半の水準となりました。しかし、「小規模企業」については前年度比12.2ポイント減の50.0%にとどまり、全体平均と比較しても17.5ポイント下回るなど、小規模企業が取り残される状況が顕著になっています。
「大企業」からは「初任給の引き上げと大幅なベースアップを既に実施済みであるため引き上げない」という意見が出ている一方、「中小企業」からは、「最低賃金の引き上げや大企業における初任給の高騰などにより引き上げを実施したが、当社のような中小企業にとってはダメージが大きい」(いずれも情報サービス業)といったコメントが寄せられました。中小企業では、厳しい経営環境下にありながら、最低賃金上昇への対応に加えて、大企業で加速している賃上げの流れに追随するために、初任給を引き上げる動きが強まっていると考えられます。
ただし、資金的余力が限定的な小規模企業では、「収益が伸び悩む中で経費だけが増加しており、人件費を上げたい意向はあっても実質的には困難である」(不動産業)との声が聞かれました。最低賃金の上昇への対応も大きな負担となっており、厳しい経営環境を背景として、初任給の引き上げに踏み切ることができない企業が少なくない実態が明らかになっています。
平均引き上げ額は9,462円に上昇 大企業が中小企業を上回る結果に
初任給の前年度からの引き上げ額について質問したところ、引き上げ額が「1万円から2万円未満」の割合が47.4%で最も高く、次いで「5千円から1万円未満」が31.6%で続きました。なお、初任給を引き上げる平均額は前年度比348円増の9,462円となっています。


企業規模別に見ると、「大企業」の平均引き上げ額は9,749円、「中小企業」は9,371円となり、「大企業」が「中小企業」を約400円上回る結果となっています。
初任給25万円から30万円未満の層が約2割に増加
2026年度の初任給の金額について質問したところ、「20万円から25万円未満」と回答した企業の割合が61.7%(前年度比0.4ポイント減)で最も高い結果となりました。次いで、「25万円から30万円未満」が前年度比6.4ポイント増の17.8%と約2割近くで続き、「15万円から20万円未満」(17.4%)を上回っています。一方、「20万円未満」(「15万円未満」と「15万円から20万円未満」の合計)は17.8%となり、前年度の24.8%より7.0ポイント低下しており、初任給の上昇傾向が確認できます。
企業規模別に分析すると、「大企業」では「25万円以上」(「25万円から30万円未満」と「30万円以上」の合計)が30.0%に達したのに対し、「中小企業」は17.0%にとどまり、企業規模による初任給水準の格差が依然として存在していることが明らかになりました。
「中小企業」からは、「初任給の引き上げには積極的に取り組みたい意向があるが、社会保険料などの負担増に加えて、仕入価格など給与以外のコストが上昇している現状においては大幅な引き上げは困難である」(飲食料品卸売業)といった切実な声が寄せられています。
調査から見えてきた課題と今後の展望
今回のアンケート調査では、企業の67.5%が2026年4月入社の新卒社員について初任給を引き上げると回答しました。引き上げ額については、「1万円から2万円未満」が47.4%で最も多く、平均は9,462円という結果になっています。
初任給額の分布状況を見ると、「25万円から30万円未満」の割合は上昇傾向が継続しており、約2割近くに達しました。反対に、「20万円未満」は減少傾向にあります。こうした動向の背景には、人材の確保や定着促進のほか、最低賃金の引き上げへの対応、さらには賃金テーブル全体のベースアップが影響を及ぼしていると考えられます。
しかしながら、原材料費の高騰や物価上昇により企業コストが膨らむ中、特に中小企業においては、初任給引き上げに充てる原資の確保が困難であるとの声が複数上がっています。また、全体的な賃上げを実施する余力が乏しく、既存社員よりも新入社員の給与が高くなる「逆転現象」への懸念に対応できず、引き上げに踏み切れない、あるいは小幅にとどめる企業も見られました。実際、中小企業では大企業の賃上げ動向に追随して引き上げに踏み切る動きが広がり、実施割合は大企業を上回ったものの、原資の乏しさから引き上げ幅は小幅にとどまり、初任給水準も比較的低い状況が続いています。また、前年度に引き上げを実施したことを理由に、今年度は据え置く企業も見られました。このような複数の事情が重なり、初任給を引き上げる企業の割合は前年度を若干下回る結果となっています。
初任給の引き上げは採用面において一定の効果が期待される一方で、社内の賃金バランスの調整や人件費総額の増加への対応も避けて通ることができない課題となります。こうした環境下において鍵となるのは、中小企業における価格転嫁の進展です。取引先とのコミュニケーション強化や情報共有の仕組み構築、コストの見える化など、価格転嫁を実現しやすくするための企業努力に加えて、それを後押しする環境の整備など、政府・行政による多様な支援策の充実も不可欠であると言えるでしょう。
企業からの主な意見
初任給を引き上げる理由
- 初任給が安価だと人材確保ができないため、上げるしか方法はない状況です(小規模企業、建設業・給排水・衛生設備工事)
- 当業界は元々の初任給が低いため、年々引き上げるようにしています。求人を行う際に非常に大きな影響があります(大企業、建設業・職別工事)
- 毎年のベースアップ分を初任給に上乗せしているため、今後も引き上げが継続する見通しです。業界環境が厳しく利益が減少する中、本音では昇給や初任給の上げ幅を抑制したいですが、社員の意欲向上や新人確保のため、一定の昇給は避けられず、企業として努力を継続しています(中小企業、化学品製造業)
- 初任給は、最低賃金の上昇率を読み込んで対応していますが、その原資の確保に課題が残ります。価格転嫁を第一に進め、業務の選別や過程の見直しなど、諸対策を進める必要があります(中小企業、運輸・倉庫業)
- 採用力を強化するため、世間の相場に合わせて初任給を引き上げました(中小企業、情報サービス業)
初任給を引き上げない理由
- 2025年度に初任給見直しを既に実施しており、さらに引き上げる場合には社員全体の給与を見直す必要があるため、負担が大きいです。また、現在の新卒求職者は給与よりも働く環境を重視する傾向が強いことを踏まえると、2026年度は引き上げない方針です(中小企業、建設業・電気通信工事)
- 既存社員とのバランスを考えると初任給引き上げは困難です。大手企業と対抗することは諦めています(中小企業、電気機械製造業)
- 入社時点で何もできず、数年間は教育に手を取られる新人の給与を引き上げるよりも、仕事を任せられるようになった若手社員の給与を大幅に引き上げるように努めています(大企業、看板・標識機製造業)
- 従業員を引き留めるために給料を上げることさえ、既に限界です。賃上げの促進よりも、物価を引き下げる政策に力を入れてほしいです(中小企業、機械・器具卸売業)
- 初任給を引き上げたいですが、物価や人件費の高騰により経営が厳しくなっているため、実施できない状況です(中小企業、運輸・倉庫業)
- 既存社員の賃上げを大幅に実施できず、逆転現象が生じるため初任給引き上げは先送りとしました(大企業、情報サービス業)
- 初任給引き上げによる負担増は経営上厳しいため、今年度は保留としました。人材育成プログラムの作成を急ぎ、生産性の向上を図ることにより賃上げ原資を確保していきたいです(小規模企業、広告関連業)
初任給引き上げに関する課題や対策
- 初任給の引き上げが企業の体力勝負のようになっているため、大企業と中小企業の格差は広がる一方です(中小企業、機械・器具卸売業)
- 新卒採用は求人を出しても応募がない状況です。ここ2年での最低賃金引き上げは、中小企業には厳しく補助金などの活用を、もっと簡易にしてほしいです(中小企業、機械製造業)
- 中途採用がメインですが、新卒初任給の上昇は中途採用市場にも影響を及ぼしています(中小企業、飲食料品・飼料製造業)
出典元:株式会社帝国データバンク












