株式会社帝国データバンクは、全国の「清酒製造業」(日本酒製造、蔵元)約1000社について調査・分析を実施しました。調査結果によると、2024年度の売上高は増加したものの、原料米高騰の影響で利益が大幅に減少したことが明らかになっています。

日本酒製造業界の業績概要

帝国データバンクが実施した調査によりますと、2024年度の日本酒蔵元(製造)約1000社の売上高合計は約3800億円となり、前年度の3775億円を0.7%上回っています。これにより、3年連続で売上高が増加し、コロナ禍で大幅に需要が落ち込んだ2020年度以降の5年間で最高を更新したとのことです。

一方で、2024年度の利益合計は93億円にとどまり、100億円を超えていた前年度(125億円)から25.6%も減少しています。日本酒の知名度向上を背景に、海外からの訪日客を中心に販売は伸びましたが、原料米の高騰が経営を直撃し、利益が大幅に縮小する結果となったようです。

日本酒蔵元の売上高・利益推移グラフ

増収企業が3割、利益確保に苦戦

同調査によると、蔵元における2024年度の業績は、前年度から「増収」となった企業が31.9%を占め、「前年度並み」の企業も48.7%と約半数を占めています。日本酒をめぐる経営環境は、「SAKE」の国際的な認知度向上を背景に、海外市場への輸出が伸びているとのことです。また、酒造り体験や文化的な要素を含めた「コト消費」への関心の高まりを受け、蔵元見学や試飲イベントへの参加などインバウンド需要が拡大し、業界成長をけん引する要因となっています。

国内市場においても、従前から進んでいた「純米大吟醸」など特定名称酒へのシフトにより、消費者の「ハレの日」需要や、地域や酒米の種類、製法などにこだわるコアなファン層向けの高付加価値商品(プレミアム帯)の販売が堅調に推移した企業も見られるとのことです。

しかし、国内の若年層では日本酒離れなどで需要が縮小していることに加え、居酒屋など客単価が比較的低い飲食店向けでは、高価格帯の日本酒の仕入れが難しいといった逆風にも直面しており、蔵元全体では前年度から売り上げが横ばいで推移する結果となったと報告されています。

業績悪化の企業が6割超、原価高騰が経営を圧迫

利益面では、黒字確保に苦戦した企業が目立ったようです。2024年度業績で最も割合が上昇したのは「減益」(28.1%)で、前年度から7.4ポイント上昇しています。「赤字」(35.7%)と合わせた「業績悪化」の割合は6割を超える結果となりました。業績悪化の割合が6割を超えたのは、2021年度(67.6%)以来、3年ぶりのことだそうです。

この背景には、原料となる酒米に加え、エネルギー、人件費など、製造に関わるあらゆるコストの高騰があり、日本酒の収益構造を大きく圧迫しているとのことです。パック酒やカップ酒、昔ながらのラベルの一升瓶商品などでよく見られる「普通酒」では、使用される加工用米の価格上昇が著しい状況です。また、吟醸酒などに使用される「山田錦」など高品質なコメも、近時の主食用米の大幅な値上がりを受けてコメ農家が酒造好適米から作付けを転換する動きもみられ、必要数量の確保が困難となっていると報告されています。

総じて、2024年度は「原価高騰との闘い」の様相を呈した1年となったようです。

日本酒蔵元の業績推移グラフ

値上げによる収益改善と「日本酒離れ」懸念の板挟み

帝国データバンクの調査によれば、2024年度の日本酒業界は、インバウンド需要や海外市場での認知度向上が成長を支えたものの、酒米を中心とする原材料費の高騰が経営を直撃し、黒字確保に苦戦する蔵元が多数を占める状況が鮮明になったとのことです。現在も、日本酒造りに欠かせない「酒米」の高騰に直面する蔵元が多く、酒米の高騰から今年度の仕込みを断念した蔵元や、十分な量の酒米を確保できず製造量を抑えざるを得ない蔵元もあるという声も聞かれるそうです。

収益を大きく圧迫するこの苦しい状況は継続しており、主食用米の価格高騰を背景に、農家が酒米から主食用米に生産を切り替える動きもあったことで調達が一層難しくなっています。2025年産の酒米(酒造好適米)の価格は前年から「4割以上も上昇した」といった事例に直面する蔵元も少なくないとのことです。酒米以外にも、瓶やラベル、配送費用などのコスト負担も重く、現状の利益率を維持するためにはさらなる販売価格の見直しが不可欠となっていると同社は指摘しています。

他方で、2025年には既に10%以上の値上げを実施した蔵元が少なくない状況です。また、競合するビールや焼酎などの価格が日本酒ほど上昇していないため、度重なる値上げがかえって「国内市場で日本酒離れを招きかねない」との懸念も業界内で広がっているようです。

今後の課題と展望

「需要拡大」と「収益悪化」という二律背反の局面に立たされている日本酒蔵元にとって、今後は酒米の安定供給と高付加価値戦略の両立が欠かせない状況となっています。原材料費の高騰が継続する中、各蔵元は経営効率化や商品ラインナップの見直し、海外市場やインバウンド需要の取り込み強化など、様々な戦略を模索していくことになるでしょう。

また、日本酒業界全体としては、農林水産省や地方自治体と連携した酒造好適米の安定供給体制の構築や、若年層や新規顧客の開拓に向けた新たな飲用スタイルの提案なども重要な課題となっているとのことです。特に、海外市場での「SAKE」ブランドの更なる強化は、国内市場の縮小を補う重要な成長戦略となりそうです。

価格競争力と品質の両立を図りながら、伝統産業としての日本酒製造をいかに持続可能なビジネスモデルへと進化させていくか。コスト高という厳しい環境の中、各蔵元の経営手腕が問われる状況が今後も続くと予想されます。

帝国データバンクによると、業績悪化に直面する蔵元が多い中でも、インバウンド需要を積極的に取り込んだり、地域特性を活かした付加価値戦略を展開したりする蔵元は比較的業績が好調なケースも見られるとのことです。各蔵元が自社の強みを活かした独自の生き残り戦略を構築していくことが、この厳しい環境を乗り切るカギとなりそうです。

出典元:株式会社帝国データバンク プレスリリース

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