
物販ビジネスにおいて、価格競争は最も避けたい消耗戦です。しかし、多くの事業者が、既存の流通モデルやプラットフォームの構造上、この競争から抜け出せずにいます。
私自身も2014年に起業して、当初はAmazonでの販売からスタートしましたが、すぐに価格競争に巻き込まれ、利益率は10%を切る状況にまで悪化しました。
「このままでは先がないぞ…」と強く感じたときに出会ったのが、海外メーカーとの独占契約という手法でした。
独占契約を結ぶことで、私は営業利益率47%という高い水準を実現し、価格競争から完全に脱却できました。さらに、その事業は高い資産価値を持つものとなり、最終的に事業売却という出口戦略まで実現しています。
本コラムでは、私が実際に経験した独占契約獲得の全プロセスを、特に多くの方が最も苦労する「MOQ(最低発注ロット)交渉」に焦点を当てて解説します。
提案書の作り方から実際の交渉術まで、明日から使える実践的なノウハウをお伝えしていきますので、ぜひお役立てください!
山本 浩之
株式会社SOLXIA
静岡県出身、早稲田大学卒業後、株式会社ヤギ(繊維専門商社)に入社。
アパレル製品の貿易実務・生産管理・海外駐在を経験後、2014年に起業。
現在は価格競争から脱却する輸入総代理モデルを確立し、45社以上のEC事業者を支援。
自身もEC事業売却を複数経験し、海外メーカーとの交渉・商談代行から事業構築、M&Aまで一貫した支援を行っている。
株式会社SOLXIA
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この記事の目次
なぜ「大手」ではなく「個人」が選ばれるのか?
海外メーカーとの独占契約と聞くと、「大手企業でなければ無理だろう」と思われるかもしれません。しかし実際には、個人事業主や中小規模のEC事業者こそ、独占契約を獲得できる可能性が高いのです。
なぜなら、海外メーカーが日本市場に参入する際には、言語・文化の違い、販売チャネルの確保、マーケティングノウハウの欠如、管理コストの増大など、いくつもの大きな壁に直面するからです。
大手企業になればなるほど、稟議や承認プロセスに時間がかかり、意思決定のスピードが遅くなります。一方で、私たち個人や中小事業者は「機動力」と「柔軟性」、そして商品に対する「熱意」を武器にできます。
実際、私の知人は年商数十億規模の海外メーカーとの契約を、大手企業や専門商社との競争に勝って獲得しました。
当時個人事業主だった彼がなぜ選ばれたのか?
メーカーに理由を尋ねたところ、「若くて面白そうだったから」という答えが返ってきたそうです。
一見すると運が良かっただけのように聞こえますが、これこそが個人や中小事業者が持つ強みです。
大手企業が「どれだけ大量に仕入れるか」を語るのに対し、私たちは「貴社の商品にどうして惹かれたのか」「どうやって日本市場でブランドを成功させるか」を熱意を持って語ることができるのです。
返信率を上げる「戦略的提案書」の作り方
海外メーカーとの交渉において、最も重要な「武器」となるのが「戦略的提案書」です。この提案書は、単なる会社紹介ではなく、「なぜ、あなたと組むべきなのか」をメーカーに納得させるためのものです。
提案書には以下の5つの要素を盛り込み、「海外製品を日本で成功させるための具体的なロードマップ」を提示しましょう。
- 市場データ(具体的な数字)
ターゲット市場の規模、成長率、競合製品の売上データなど、客観的な数字で日本市場の魅力を示します。データが具体的であればあるほど、メーカーにとって貴重な情報となり関心を引きます。
- 販路の明確化
どのECプラットフォーム(Amazon、楽天市場、自社ECなど)で、どのような顧客層に販売するのかを明確にします。
- マーケティングプラン
SNS活用、インフルエンサーマーケティング、コンテンツマーケティングなど、具体的な施策を提示します。
- 売上予測
テストマーケティング、初年度〜4年目の売上予測を、根拠となるデータとともに示します。
- 自社の強み
すでにEC事業を展開しているなら、年商や主要モールでの実績、取引先、SNS運用の実績など、事業の独自性や専門性を大いにアピールします。
過去の成功事例や他メーカーとの取引実績があれば、積極的に盛り込みましょう。
私自身が独占契約を勝ち取った際、メーカーから言われたのは「あなたの提案書に書かれていた市場分析の深さと、SNSを活用した具体的な販売戦略は、これまで話した日本のどの企業よりも具体的で、我々の製品への情熱を感じた」という言葉でした。
メールの件名は「日本のEC市場で貴社製品〇〇の売上を最大化する戦略的パートナーシップのご提案」のように、「戦略的パートナーシップ」という言葉と相手のメリットを盛り込みます。
本文では自己紹介を簡潔に行い、製品へのリスペクトを示した上で、「詳細な市場分析と具体的な販売戦略をまとめた提案書を添付しました」と伝え、提案書への誘導を促します。
最後に「30分間のオンラインミーティングで提案内容をご説明させていただきたい」と、具体的な次のステップを提示しましょう。
MOQ交渉と契約で押さえるべき実践ポイント
交渉のテーブルについたら、いよいよ独占契約の核心部分、MOQ(最低発注ロット)と契約条件の交渉に入ります。
ここで多くの方が「メーカーの言い値を受け入れるしかない」と考えてしまいがちですが、それは大きな誤解です。メーカーが最初に提示するMOQは、彼らの生産効率を優先したものであり、交渉の余地は十分にあります。
実は私も初めての頃、韓国メーカーに『MOQをゼロにしてほしい』と一方的に伝えたところ、商談で激怒された経験があります。
今冷静になって考えてみると一目瞭然、メーカーにとって何のメリットもない要求だったからです。
重要なのは、「メーカーにとってもメリットがある提案」をすることです。
単に「ロットを減らしてほしい」と懇願するのではなく、Win-Winの関係を築ける条件を提示することで、驚くほどスムーズに交渉が進みます。
MOQ交渉の3つのカード
MOQ交渉では、以下の3つのカードを効果的に使い分けることが重要です。
実際に、この交渉術を取り入れた弊社のクライアントは、クラウドファンディングだけでなく、その後の一般販売においてもMOQゼロ(1個から発注可能)の契約をまとめることが多いです。
また、メーカーから当初150個の提示を受けたクライアントが、「単価が上がっても構いませんので、まずは小ロットから始めさせてください」と交渉し、結果的に30個からのスタートが認められ、初期投資を大幅に抑えた事例もあります。
「単価アップ×ロット減」の提案
初期段階では、多少単価が上がっても在庫リスクを最小限に抑えることを優先します。
独占契約モデルなら、販売価格の決定権はこちらに主導権があるため、原価が数百円程度高くなったとしても気にならないくらいの差です。
例えば、500個で単価2,000円の提示に対し、「100個で単価2,300円はいかがでしょうか」と提案してみましょう。
メーカーにとっては、ロット数が減っても単価が上がることで利益率が確保でき、日本市場への第一歩として小さく始められるため、受け入れられやすい交渉術です。
クラウドファンディングでの受注数を発注条件に
「クラファンで集まった受注数だけを初回発注とする」という交渉は非常に有効です。
「貴社製品の日本市場での需要を検証します。集まった注文数だけを発注するので、双方にとって在庫リスクがゼロです」と提案することで、メーカー側も安心して独占契約を結べます。
テストマーケティングとしての位置づけ
初回発注を「本格的な独占契約に向けたテストマーケティング」と位置づけることで、小ロットでの取引を正当化できます。
「まずは100個で日本市場の反応をテストさせてください。成功すれば次回から大量発注に移行します」という提案は、メーカーにとってもリスクが少なく、市場調査を代行してもらえるメリットがあります。
独占契約がもたらす利益率47%の内訳
独占契約は、単に価格競争から解放されるだけでなく、あなたのEC事業そのものに「資産価値」をもたらします。
私が実現した利益率47%という数字は、以下の3つの要素によって成り立っています。
- 価格決定権の確保
独占契約により、競合による価格破壊を防ぎ、適正な利益を乗せた販売価格を維持できます。市場の動向に左右されず、計画的な利益確保が可能になり、確保した利益を広告や顧客体験の向上に再投資できます。
- 中間マージンの排除
海外メーカーと直接取引ですので、商社や卸などの中間業者を介さず、仕入れコストを大幅に削減できます。
- ブランド価値の向上
独占販売者として、ブランドの世界観を統一したマーケティングが可能となり、価格ではなく「価値」で選ばれるようになります。
さらに重要なのが、独占契約が事業の「無形資産」となることです。将来的に事業売却を見据えた場合、独占契約は事業の評価額を劇的に引き上げます。
独占契約に基づく安定した利益率と収益構造は、買い手にとって最も魅力的な要素です。独占契約は競合他社の参入を法的に防ぐ高い参入障壁となり、メーカーとの強固な信頼関係と契約の自動更新条項は、事業継続性の高さとして評価されます。
私自身のEC事業売却の経験から言えるのは、「独占契約のある事業は、ない事業に比べて圧倒的に高い評価を受ける」ということです。
買い手は、一時的な売上ではなく、「将来にわたって安定的に利益を生み出し続ける仕組み」にお金を払います。独占契約は、まさにその仕組みの核となるのです。
まとめ
本コラムでは、価格競争から脱却し、利益率47%を実現するための「海外メーカー独占契約のMOQ交渉術」を解説しました。
独占契約は、単なる交渉術ではなく、「メーカーの課題を解決し、日本市場での成功を約束する戦略的パートナーシップ」の提案です。
そして、MOQ交渉では「単価アップ×小ロット」「クラファン活用」「テストマーケティング」という3つのカードを使い分けることで、初期投資を大幅に抑えながら独占契約を獲得できます。
価格競争に疲弊しているEC事業者の皆様、ぜひ今日から提案書の作成に着手し、メーカーとの交渉を始めてみてくださいね!
P.S.
Xでは、海外メーカー交渉術や独占契約ノウハウ、 事業売却を見据えたEC運営についても発信しています。ぜひフォローいただけると励みになります!
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また、かわさきFMにて「プロバイヤーの推しモノラジオ(#オシモノ)」という新番組のパーソナリティも務めています。さまざまな業界のバイヤーをゲストに、トレンドや注目商品について深掘りする番組です。
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株式会社SOLXIA
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