花王、肌評価AI「Kirei肌AI」を大幅アップデート - 肌内部の状態も推定可能な77項目の網羅的評価を実現

花王株式会社が独自開発した肌評価AI「Kirei肌AI」をバージョンアップし、従来は専用機器でしか測定できなかった肌内部の状態まで推定できる機能を追加したことが発表されました。これにより従来の約5倍となる計77項目の肌評価が可能となり、研究開発の大幅な効率化とデータ駆動型の化粧品開発が進んでいるとのことです。

花王株式会社(社長・長谷部佳宏)の化粧品研究所では、従来のAIシステムを拡充し、肌状態の確認試験や調査時間の短縮、化粧品の処方設計の精度向上、研究における仮説立案から検証までのサイクルの高速化を実現したことが明らかになりました。さらに、得られたデータを起点に今まで知られていなかった関係性や新たな発想を得るといった好循環も生まれているようです。

この研究成果の一部は、第35回IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)Congress カンヌ大会(2025年9月15~18日、フランス・カンヌ)にて発表されたとのことです。

開発の背景

化粧品、特にメイクアップ製品の開発においては、繊細な色や質感を作りこんだ多数のアイテムを短期間で提供し続けることが求められています。このニーズに応えるため、花王は肌の見た目の印象を顔画像から高精度に評価・可視化する技術として「Kirei肌AI」を構築し、これまでに製品評価や生活者向けの肌測定サービスに応用してきました。

美と価値観の多様化が加速する中で、さらなる商品開発研究の効率化および精緻化が喫緊の課題となっています。そうした状況において、「Kirei肌AI」には見た目だけでなく、肌に関する網羅的な情報を取得する機能も期待されるようになってきました。そこで花王は、入力する学習データの再検討と搭載する機械学習モデルの拡充を進め、解析できる項目の充実に取り組んだとのことです。

複数の独自機械学習モデルの追加により、顔画像から肌内部の状態まで推定可能に

これまでの「Kirei肌AI」は、ほうれい線や目尻などの部位特有の変化や、水分量、セラミド組成、コラーゲン密度など肌内部の状態を推定できる仕様ではありませんでした。今回のアップデートでは、これまでの学習データ形式である17.8mm×17.8mmサイズの"肌パッチ画像"に加え、20~80代の男女293名の顔画像から特定部位を切り出した"部位別画像"計70,389枚も利用し、シワ・たるみ・水分量などを評価・推定する複数の機械学習モデルを新たに構築したことが報告されています。

この拡充により、「Kirei肌AI」には計25の機械学習モデルが搭載され、肌表面の見た目から内部まで77項目にも及ぶ肌状態を評価・推定できるようになりました。

図1. 機能拡充した「Kirei肌AI」 (拡充部分は赤字)

研究スピードの向上とデータ駆動型のモノづくり

従来の肌評価方法では、仮説を立てて試験を設計し、解析が完了するまでに数カ月の時間と数十名の研究員が関わる必要がありました。しかし機能拡充した「Kirei肌AI」では、適切に撮影された顔画像データさえあれば、顔画像1枚あたり10分以下の解析時間で網羅的なデータを得ることが可能になったといいます。現在、研究所内での運用も定着し、平均して月間のべ730枚の顔画像を解析しているとのことです。これにより、仮説から検証までのプロセスが劇的にスピードアップしました。

また、過去に取得した膨大な顔画像データも、機能拡充した「Kirei肌AI」で再解析することができます。取得時点では評価・推定できなかった水分量、皮脂量、ハリなどの肌状態に関する項目とメイクの仕上がりを同時に評価できるようになったことで、例えば「ハリのない肌では、メイク後の肌でシワが目立ちやすい」などといった関係性も定量化することが可能になったとのことです。

このようにして、これまでは気づかなかった課題や、今まで知られていなかった関係性を可視化できることから、データを基にした新たな視点での製品開発につながっています。

今後の展望

花王は、人の目や精密機器と同等以上の肌評価の実現に向けて、今後も「Kirei肌AI」の評価項目の拡張と推定精度のさらなる向上を継続的に進めていく方針だと発表しています。さらに、グローバルでの展開を見据えて、さまざまな肌のトーンや肌特性に対応したデータ拡充も推進し、適用範囲の拡大を図るとしています。

このような取り組みを通じて、同社は化粧品開発における時間およびコストの効率化を図り、美と価値観の多様化に対応する魅力的な製品開発で、消費者の期待を超える商品開発を推進していくことを目指しているようです。

「Kirei肌AI」は2021年12月に最初のバージョンが発表され、その際には「ヒトの感性も学習した独自肌評価AI」として、評価の難しい肌のつや感の特徴も精緻に表現できることが特徴でした。また、2023年3月には花王のデジタルプラットフォーム「My Kao」において、AI活用による肌測定サービス「肌レコ」の運用が開始されるなど、研究成果の一部はすでに消費者向けサービスとしても提供されています。

今回の機能拡充により、「Kirei肌AI」は単なる肌の見た目だけでなく、肌の内部状態まで含めた総合的な肌評価ツールとして進化し、化粧品開発の新たな可能性を切り開くことが期待されています。

これらの技術開発により、花王は研究開発のデジタル化を推進し、より効率的で高度な製品開発を実現することで、多様化する消費者ニーズに応える製品を提供していくことを目指しているとのことです。「Kirei肌AI」の機能拡充は、そうした取り組みの一環として、今後の化粧品産業に大きな影響を与える可能性を持っています。

出典元:花王株式会社

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ