
株式会社NTTドコモと株式会社インテージは、株式会社日本経済研究所および株式会社川崎フロンターレの協力のもと、Jリーグクラブ「川崎フロンターレ」のホームスタジアム周辺において、位置情報や決済情報を活用した人流・消費行動の分析実証実験を実施したことを発表しました。この実験により、スポーツイベントが地域経済に与える効果が明らかになり、1試合あたり2,419万円の経済効果があることが判明しています。
この実証実験は2024年3月1日から同年10月8日までの期間で行われ、ドコモが保有する位置情報、決済情報、ユーザー属性情報などの分析から得られた統計情報をもとに、インテージが地域消費動向等の分析を実施したとのことです。日本経済研究所と連携してレポートをとりまとめ、2025年6月27日に分析レポートが公開されています。
■スポーツ施設の地域経済効果を検証する新たな手法
近年、スタジアム・アリーナなどの大型スポーツ施設は、単にスポーツを行う場や観戦する場としての機能だけでなく、まちづくりや地域活性化の核としての役割が期待されています。しかし、これまでの自治体等による経済効果の推計は、既存の統計データやアンケート結果に基づいて行われることが多く、実際にどの程度の経済効果があったかを正確に検証することは困難でした。
今回の実証実験では、「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」周辺におけるスポーツイベントの経済効果が分析されました。ドコモは位置情報、決済情報、ユーザー属性情報といった多種多様なデータを活用し、特定の時期・場所における人数や決済額に関する統計情報を分析する経済効果推定技術を開発し、本実証実験で活用したと報告しています。
この分析により、従来の調査手法では困難だったスタジアム来場有無やイベント前後の滞留状況、利用駅などの違いによる消費行動の差が明らかになったといいます。これは広域なホームタウンを持つクラブチームや施設整備を検討する自治体にとって、施設の効果が広域のステークホルダーに及ぶ可能性を示す重要な知見となります。
■各社の役割と連携によって実現した高度な分析
本実証実験は川崎フロンターレの協力を得て、調査分析ノウハウを持つインテージ・日本経済研究所と、多様かつ膨大なビッグデータを保有するドコモの連携によって初めて実現したとされています。
ドコモは多種多様なデータにより、特定の場所・時間における人数や決済額に関する統計情報を分析する経済効果推定技術を開発しました。この技術は特定のイベントやエリアの来訪者を推定し、その移動・消費行動を詳細に分析することで、地域への経済効果の推定を可能にしているとのことです。
この技術の特徴は、位置情報と決済情報を組み合わせることで、従来のアンケートや単一データでは分析が難しかった観点からも、経済効果を定量的に分析できる点だといいます。また、周辺駅の混雑状況や商業施設への滞留状況も定量的に把握でき、ドコモの決済以外も考慮した全体の消費を推計することで、より実態に即した経済効果を把握できるとしています。
一方、インテージは位置情報と決済情報を用いて地域への経済的・社会的インパクトを可視化するというテーマを設定。日本経済研究所と連携して具体的な調査設計を進め、各種データの収集・分析により、地域における人流および消費行動の傾向を明らかにしました。
■実証実験の結果概要
本実証実験では、ドコモが提供する統計的に処理された位置情報と決済情報をインテージが分析することで、スタジアム来場者と地域全体それぞれの行動と消費の特徴、およびその経済効果を客観的に算出したとのことです。特に位置情報による来場判定と、それに紐づく決済情報の拡大推計を通じて、来場者に限定した効果の定量的な把握を可能にしました。
また今回、新たに「滞留」という概念を分析に導入し、来場者が地域内にどの程度とどまり、消費行動に結びついているかを可視化したそうです。実証実験の主な結果は以下の通りです。
1. スタジアム周辺での人流・決済への効果
スタジアムとその最寄り駅の人流を分析した結果、キックオフ1時間前からキックオフ後2時間後までがスタジアム周辺で人流が増加する時間帯であることが判明しました。また、最寄り駅の人流はキックオフ4時間後まで緩やかに減少しており、駅周辺に一定時間滞留していることがわかったとしています。
2. スタジアム来場者の消費額の試算
位置情報と決済情報を組み合わせることで、スタジアム来場者に限定したスタジアム周辺エリアの消費分析・拡大推計を実施。この結果、1試合あたりの経済効果を2,419万円と算出することができたとのことです。これは位置情報と決済情報の両方を有するドコモだからこそ可能になった分析だと説明されています。
3. スタジアム来場者の消費・行動
スタジアム来場者に関する詳細分析として、試合前後におけるスタジアム周辺エリアの滞留有無と一人当たり平均決済額の差異を分析。その結果、滞留者は非滞留者の約2倍の消費を行っていたことが明らかになり、滞留と決済の関係性が明確に示されたということです。
また、昼の試合開催日においては、試合終了後に商業集積エリアに滞在する人流が一定程度観測され、スポーツ施設来場者の消費増加効果が立地場所周辺だけでなく広範囲に及んでいることが示唆されたとしています。これは広域なホームタウンを持つクラブチームや施設整備を検討する自治体にとって重要な知見です。
これまでの調査では「地域効果」と「来場者効果」を明確に分けて把握することは困難でしたが、今回の実証実験ではその双方を客観的なデータに基づいて検証・比較できた点で、非常に意義のある取り組みとなったと評価されています。
■今後の展開
ドコモは2025年4月24日に公表した通り、Jリーグとの新しい協業ビジョン「チームになろう。」のもと、今後より一層Jリーグクラブとの協業に力を入れていく予定とのことです。
本実証実験で活用したドコモの経済効果推定技術は、他のJリーグクラブやスポーツ事業者、地方自治体にも展開が可能だといいます。今後もさまざまなステークホルダーの期待に応じて新規施策立案などにも資する技術開発を進めることで、地域活性化につなげることが期待されています。
ドコモとインテージは今後も、豊富なデータ資産と高度な調査ノウハウを活用し、さまざまな地域・事業者が持つ社会課題解決やビジネス成長に貢献していく方針だと発表しています。
■実証実験の概要
実証実験の調査対象
期間:2024年3月1日(金)~2024年10月8日(火)(2024明治安田J1リーグ開催期間の一部)
施設:川崎市中原区の等々力緑地内に立地する「Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu」
出典元:株式会社NTTドコモ・株式会社インテージ