
東京商工リサーチが、2025年度の「賃上げ」に関する企業アンケート調査の結果を発表しました。
今回の調査は、2025年2月3日から10日にかけてインターネットによるアンケートを実施し、5,467社から有効回答を得ました。賃上げの実態を把握するための賃上げの定義には「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を含めました。また資本金により、大企業を1億円以上、中小企業を1億円未満(個人企業等を含む)と定義しました。
この記事の目次
- 1 調査結果の概要
- 2 調査結果の詳細
- 2.1 Q1.来年度(2025年度)、貴社では賃上げを実施しますか?(択一回答)
- 2.2 Q2.来年度(2025年度)賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。向こう5年先まで見通した場合、貴社は毎年の賃上げを実施できそうですか?(単一回答)
- 2.3 Q3.来年度(2025年度)賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。賃上げする理由は何ですか?(複数回答)
- 2.4 Q4.来年度(2025年度)賃上げを「実施しない」と回答した方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)
- 2.5 Q5.賃上げ幅をより重視している従業員の年代は次のどれですか?(単一回答)
- 2.6 Q6.貴社で実施する賃上げの内容についてすべてお答えください。(複数回答)
- 2.7 Q7.賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。賃上げ率(全体)は2024年度と比較してどの程度を予定していますか?(小数点第一位まで)
- 2.8 Q8.「定期昇給率」は2024年度と比較してどの程度を予定していますか?(小数点第一位まで)
- 2.9 Q9.「ベースアップ」は2024年度と比較してどの程度を予定しますか?(小数点第一位まで)
- 2.10 Q10.賃上げを実施するうえで必要なことは次のうちどれですか?(複数回答)
調査結果の概要
2025年度における賃上げを計画している企業の割合が85.2%に達する見込みであり、これは東京商工リサーチ(TSR)が「賃上げ」に関する企業アンケート調査を始めた2016年度以降の最高値を更新することが期待されています。しかし、「5%以上」の賃上げを見込んでいる企業は全体で36.4%であり、中小企業においては「6%以上」の賃上げを予測している企業は9.1%にとどまることがわかりました。
日本労働組合総連合会(連合)は、2025年の春闘に向けて全体で「5%以上」、中小企業で「6%以上」の賃上げを目指す方針を掲げていますが、中小企業がこの6%を実現するには難易度が高いとされています。
2025年度に「賃上げを実施する」との回答を得た企業に対して、毎年賃上げを続けることができる見通しについて質問したところ、34.6%の企業が「持続的な賃上げの見通しが立っていない」と答えました。この中で「毎年実施するのは難しい」との見解を持つ企業は5.3%で、特に医療業界ではその割合が19.0%と高いことが目立ちました。
賃上げを「実施しない」とする企業が挙げた理由の中で最も多かったのは、原材料費などの高騰で49.5%でした。賃上げを「実施しない」企業では、「価格転嫁できていない」との回答が36.4%に上り、賃上げを実施する企業の17.3%を19.1ポイント上回っています。価格転嫁の状況が賃上げ実施率向上に重要な役割を果たしていると言えます。
厚生労働省が公表した2024年の実質賃金(速報値)は前年比で▲0.2%とマイナス幅が縮小しましたが、物価上昇に賃上げが追い付くまではまだ道半ばです。連合は実質賃金を上昇させ、個人消費の低迷を打破するために高い賃上げ目標値を掲げているものの、特に中小・零細企業では価格転嫁が進まないため、賃上げ原資の確保が困難な状況です。自助努力だけでは限界を感じる企業もあり、適切な価格転嫁を実現するためには取引先の理解や行政の支援が求められています。
調査結果の詳細
Q1.来年度(2025年度)、貴社では賃上げを実施しますか?(択一回答)
「実施する」が85.2%
2025年度に賃上げを「実施する」と回答した企業は、全体の85.2%(5,278社中4,498社)にのぼります。この数字は2024年度に賃上げを実施した企業の84.2%を1.0ポイント上回り、調査開始以来の最高値を更新する見通しです。
企業の規模別では、「実施する」との回答は大企業では92.8%(378社中、351社)に達し、中小企業の実施率は84.6%(4,900社中、4,147社)にとどまり、8.2ポイントの差があります。

産業別 10産業中、5産業で賃上げ予定が8割超す
産業別データでは、「実施する」と回答した割合が最も高いのは製造業で90.8%(1,389社中、1,262社)で、その後は運輸業が90.0%(202社中、182社)、卸売業が87.8%(1,077社中、946社)、建設業が86.0%(823社中、708社)、サービス業他が82.4%(946社中、780社)と続いています。
全体の10産業のうち「実施する」という回答が8割を超えたのは5産業であり前回調査では7産業が8割を超えていました。2024年8月の調査では、農・林・漁・鉱業、小売業、金融・保険業の3産業が8割未満に低下しましたが、サービス業他は8割未満から8割以上に上昇しています。
「実施する」の回答率が最も低いのは不動産業の60.9%(174社中、106社)で、唯一7割を下回っています。業績変動が小さく、社員数も少ない賃貸・管理業者などでは賃上げを見送る企業が多いと考えられます。
次いで金融・保険業が73.5%(53社中、39社)、情報通信業が75.8%(302社中、229社)と、こちらも実施予定率が低い結果となっています。

Q2.来年度(2025年度)賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。向こう5年先まで見通した場合、貴社は毎年の賃上げを実施できそうですか?(単一回答)
「毎年実施できるか不透明」の構成比が最大の29.3%
2025年度賃上げを「実施する」と回答した企業に向けて、今後5年間の賃上げの見通しについて質問したところ、最大の構成比を占めたのは「毎年実施できるか不透明」の29.3%(4,292社中1,258社)でした。その次に「おそらく(60%程度)毎年実施できる」が28.8%(1,237社)となりました。
「必ず毎年実施できる」「高い確率で毎年実施できる」「おそらく毎年実施できる」の3つを合わせると、毎年の賃上げを継続する意向を示す企業は65.3%(2,806社)にのぼります。
一方、「毎年実施するのは難しい」と答えた企業は5.3%(228社)という結果でした。

【産業・業種別】
産業別に見ると、毎年賃上げが継続できると見込む企業は、情報通信業が68.3%で最も多く、次いで卸売業67.8%、不動産業67.3%が続いています。一方で農・林・漁・鉱業(54.2%)、小売業(57.5%)は6割を下回る状況です。
さらに業種別に細分化すると、「機械等修理業」が93.3%が継続実施の見通しがあります。次に「家具・装備品製造業」83.3%、「窯業・土石製品製造業」76.5%と続きます。
逆に継続実施が難しい業種としては「医療業」と「非鉄金属製造業」が19.0%で最も多く、「医療業」では2025年度賃上げを「実施しない」という企業も28.1%に上ります。診療報酬が公定価格で設定されているため、他の業種に比べて売上の拡大が難しいとされています。さらに物価や光熱費の高騰に対し、売上が不振となっている医療機関では賃上げに二の足を踏む傾向があります。

Q3.来年度(2025年度)賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。賃上げする理由は何ですか?(複数回答)
賃上げ実施理由は「従業員の離職防止」が78.0%でトップ
2025年度に賃上げを「実施する」と回答した企業に賃上げ理由を問いかけたところ、4,303社から回答が得られました。
最も多かった回答は「従業員の離職防止」で78.0%(3,359社)に達しました。10産業のうち、建設業、製造業、小売業、金融・保険業、運輸業、情報通信業、サービス業他の7産業でこの理由が最多となり、特に「2024年問題」によるドライバー不足が深刻な運輸業では87.2%(173社中151社)がこの理由を挙げました。
次に多かった理由として「物価高への対応」が71.7%(3,087社)、次いで「新規採用を円滑にするため」が50.1%(2,159社)との結果が得られています。一方、「業績向上分の還元」と「業績見通しの好転」はそれぞれ33.3%(1,435社)、7.6%(328社)という結果で、経営課題への賃上げの必要性が浮かび上がります。
「新規採用を円滑にするため」は、大企業が72.1%(337社中243社)に対し、中小企業は48.3%(3,966社中1,916社)で、23.8ポイントの差があります。新卒を重視する大企業と経験を重視する中小企業では賃上げ理由に違いが見られます。

Q4.来年度(2025年度)賃上げを「実施しない」と回答した方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)
「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰している」が49.5%でトップ
2025年度に賃上げを「実施しない」と回答した企業にその理由を問いかけたところ706社から回答がありました。
その中で「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰している」が49.5%(350社)で最も多く、10産業中、建設業、卸売業、小売業、金融・保険業、運輸業の5産業でこの回答が多数を占めました。
次いで「コスト増加分を十分に価格転嫁できていない」が48.4%(342社)となり、コスト高騰と価格転嫁の難しさが賃上げ未実施の主な理由と考えられます。
さらに「受注の先行きに不安」が中小企業で45.6%(683社中312社)、大企業の17.3%(23社中4社)を28.3ポイントも上回っており、多くの中小企業が業績の見通しを立てられない状況が浮かび上がります。
また「増員を優先」という理由が大企業で26.0%(6社)に対し、中小企業は9.8%(67社)でした。人員補充が賃上げ原資に影響を与える例が確認されています。

賃上げ実施状況別価格転嫁割合 価格転嫁の進行度で賃上げ実施率に格差
賃上げ実施状況別に価格転嫁の割合を調査した結果、2,787社からの回答が得られました。
「価格転嫁できていない」という回答では、「実施する」が17.3%(2,365社中411社)、対して「実施しない」は36.4%(422社中154社)となり、19.1ポイントの差が明確になりました。価格転嫁が進む企業は賃上げ実施率も高い傾向にあります。
賃上げを実施している企業の中で価格を転嫁する割合で最も多いのは「1割」の26.5%(629社)で、次に「5割」が13.0%(309社)となっています。一方で価格転嫁できていない企業の中でも「1割」が最も多く30.8%(130社)でした。

Q5.賃上げ幅をより重視している従業員の年代は次のどれですか?(単一回答)
「年齢差は設けていない」が39.0%でトップ
2025年度の賃上げを「実施する」と回答した企業に、賃上げ幅を重視している従業員の年代について尋ねたところ、「年齢差は設けていない」企業が39.0%(4,273社中1,667社)に達しました。大企業では39.4%(332社中131社)、中小企業は38.9%(3,941社中1,536社)で、規模を問わず約4割の企業が年齢差を設けていない傾向が見られます。
大企業では「10代・20代」が32.2%(107社)で若手社員の賃上げを重視していることが示されていますが、中小企業では「30代」が27.0%(1,068社)と高く、中堅層を重視する傾向が見受けられます。
産業別では、情報通信業では若手社員(10-30代)の賃上げ幅を重視する企業が52.0%(217社中113社)を占めていますが、運輸業では31.3%(172社中54社)と低調で、高齢化が課題です。

Q6.貴社で実施する賃上げの内容についてすべてお答えください。(複数回答)
「ベースアップ」実施は約6割
賃上げを「実施する」と回答した企業に内容を尋ねると、4,338社からの回答がありました。その中で最多の回答は「定期昇給」の75.6%(3,280社)でした。
次いで「ベースアップ」の59.4%(2,578社)、続いて「賞与(一時金)の増額」の44.6%(1,936社)という結果となっています。
規模別に見ると、「定期昇給」は大企業が87.1%(342社中298社)に対し、中小企業は74.6%(3,996社中2,982社)となり、12.5ポイントの差を詳細に示しています。
また、「新卒者の初任給の増額」は大企業の実施率が45.3%(155社) に対し、中小企業は26.6%(1,066社)で、最大で18.7ポイントの差があります。企業規模の違いが、初任給においても明らかになっています。
ほとんどの選択肢において大企業は中小企業を上回っていますが、「賞与(一時金)の増額」では中小企業が45.3%(1,811社)で、大企業の36.5%(125社)を8.8ポイント上回っていることが分かりました。このことは、中小企業が長期的な人件費の増加への対処としてベースアップや定期昇給よりも、賞与(一時金)や手当という短期的な賃上げに頼る傾向にあることを示しています。
産業別では、不動産業を除く9産業で「定期昇給」の構成比が最大となり、不動産業では唯一「ベースアップ」が66.3%(101社中67社)の構成比を持っています。

Q7.賃上げを「実施する」と回答した方に伺います。賃上げ率(全体)は2024年度と比較してどの程度を予定していますか?(小数点第一位まで)
「5%以上」は36.4%
Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ率を尋ねた結果、2,403社からの回答を得ました。
レンジ別で見ると、最多の回答は「3%以上4%未満」の28.7%(692社)、次に「5%以上6%未満」が27.4%(659社)、「2%以上3%未満」が15.8%(381社)という結果でした。
全体で「5%以上」と回答した企業は36.4%(875社)であり、中小企業で「6%以上」と回答した企業は9.1%(2,251社中205社)、この割合は1割にも満たない結果となっています。
企業間の格差是正を目指す動きが2014年から続いていますが、中小企業が全体目標を上回る目標を掲げたのは11年ぶりのことで、現状の厳しさが浮かび上がります。

Q8.「定期昇給率」は2024年度と比較してどの程度を予定していますか?(小数点第一位まで)
「2%以上3%未満」が約4割
1,939社からの回答が得られた結果、「2%以上3%未満」が39.5%(767社)で最も多く、次いで「3%以上4%未満」が23.0%(446社)、「1%以上2%未満」は20.1%(391社)という結果です。
規模別に見ると、「2%以上3%未満」は大企業では45.2%(137社中62社)、中小企業では39.1%(1,802社中705社)という結果で、中央値は全体及び中小企業が2.5%で、大企業は2.0%となっています。

Q9.「ベースアップ」は2024年度と比較してどの程度を予定しますか?(小数点第一位まで)
「3%以上」は4割
1,636社からの回答を得た結果、「2%以上3%未満」が35.8%(586社)、次いで「3%以上4%未満」が22.7%(373社)、「1%以上2%未満」が18.2%(298社)となっています。
規模別では、最大レンジは「2%以上3%未満」であり、大企業が35.5%(104社中37社)、中小企業が35.8%(1,532社中549社)で確認され、全体の中央値はすべての企業で2.5%に設定されています。
産業別では、ベースアップ率が「3%以上」となる構成比が最も高いのは農・林・漁・鉱業の54.5%であり、次いで不動産業が51.3%、情報通信業が48.1%、サービス業他が46.9%となっている結果が見られました。
一方、金融・保険業では30.7%、運輸業では33.8%と低い結果が現れています。


Q10.賃上げを実施するうえで必要なことは次のうちどれですか?(複数回答)
最多の「値上げ」が7割
賃上げを「実施する」と回答した企業に、賃上げを実施するために必要な要因を尋ねたところ、最も多かったのは「製品・サービス単価の値上げ」で70.5%(5,467社中3,856社)がこの回答をしました。次いで「製品・サービスの受注拡大」が59.9%(3,275社)、そして「従業員教育による生産性向上」が47.9%(2,621社)との結果が得られました。
規模別に見ると、「従業員教育による生産性向上」で大企業が58.8%(420社中247社)に対し、中小企業は47.0%(5,047社中2,374社)であり、11.8ポイントの差が見られることが確認されています。また「設備投資による生産性向上」に関しても、大企業が35.4%(149社)に対し、中小企業は24.2%(1,226社)で11.2ポイント差が認められます。大企業では生産性向上を強く目指す傾向が続いています。
逆に「税制優遇の拡充」に関しては中小企業が19.1%(964社)で、大企業の11.1%(47社)を8.0ポイント上回り、「補助・助成制度の拡充」に関しては中小企業が18.2%(921社)で、大企業の10.4%(44社)を7.8ポイントも上回りました。このような結果から、中小企業は自らの力だけで持続的な賃上げが難しいと考える企業が多いことが浮き彫りになっています。


2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%と、4年前の84.8%以来の最高値更新が見込まれています。しかし、「実施する」では大企業の92.8%対し、中小企業は84.6%で8.2ポイントの差が顕著です。2024年8月調査からは差が縮小しましたが、依然として大きな格差が存在します。
賃上げ実施に必要な要因として、大企業・中小企業共に「値上げ」が7割で最も多い結果が出ました。一方、中小企業は「税制優遇、補助・助成制度の拡充」の必要性が高く、行政の支援を求める企業が多いという現実が見えました。逆に生産性向上を図る姿勢は、大企業よりも中小企業の方が低い傾向があります。
資金的な制約がある中、自助努力が限界に達した企業に対しては、行政や金融機関による支援が求められます。しかし、行政が過剰に介入して支援に依存する状況が進むと、国内のイノベーションが停滞する懸念もあります。
持続的な賃上げを実現するには、発注企業が受注企業の状況を考慮し、受注企業は競争力の高い製品・サービスを提供することで、民間レベルで相互理解を深めることが肝要です。
さらに今回の調査では、大企業が若年層の賃上げに注力することが浮き彫りになりました。限られた賃上げ原資に対して若年層に重点を置く企業も多く、その結果、中高年層の賃金抑制につながる恐れがあります。
重要な人材を失うことを防ぐためには、職種や成果に応じた報酬を増やす必要があり、これに伴い中高年層の賃金格差が広がることが懸念されます。
したがって、価格転嫁の推進が人材への投資環境を高めることで、世代に応じた人材育成を進め、生産性向上から全体の給与アップが実現できるかが今後の重要な動向です。
出典元:東京商工リサーチ プレスリリース