株式会社帝国データバンクが、出版業界における業績動向に関する詳細な調査と分析を実施した結果が発表されました。

調査の概要

  1. 2023年度の業績において、過去最大の66.1%が「業績悪化」と報告されています。
  2. 倒産件数はコロナ禍前の水準に戻り、デジタルシフトおよび出版流通の効率化が注目されています。

今回の調査は、帝国データバンクが保有する企業信用調査報告書ファイル「CCR」に基づいており、新聞刊行を除く「出版社」に分類された675社の業績が明らかになっています。調査対象の期間は2023年度(2023年4月から2024年3月までの決算期)です。

過去最大の66.1%が「業績悪化」の結果となった2023年度

全国出版協会および出版科学研究所によれば、2023年における紙媒体と電子媒体を含む出版物の推定販売額は1兆5,963億円(前年比2.1%減)となり、2年連続で前年を下回る結果となっています。2024年の上半期も売上は7,902億円(前年同期比1.5%減)にとどまっており、出版セクターの売上は1996年まで拡大を続けていましたが、1997年からの消費税率引き上げやインターネットの普及、少子高齢化などが影響し、経営環境はますます厳しくなっています。

2023年度の決算結果をもとに675社の出版社を分析したところ、247社(36.6%)が「赤字」で、過去20年間では最も高い割合であることが明らかになりました。「減益」となった企業を加えた「業績悪化」の割合は66.1%に達し、歴史的な水準となっています。

コロナ禍中の巣ごもり需要により電子書籍などデジタルコンテンツの需要は増えましたが、書店での販売部数の減少がこれを上回り、また印刷用紙やインク、人件費、物流費のコストが上昇し、業績悪化が一層進行しています。特に雑誌メディアは厳しい状況にあり、委託販売制度による返品率は3~4割を超え、物流費や在庫負担を増加させています。

価格転嫁の状況も厳しく、帝国データバンクが2024年8月に発表した「価格転嫁に関する実態調査」によると、出版社の74.9%が価格転嫁率が50%未満と回答しています。この結果は、全業種の価格転嫁率44.9%を下回っており、特に既刊本に関しては価格転嫁が困難な状況です。

倒産件数、コロナ禍前の水準に戻る デジタルシフトと出版流通の効率化に焦点

2024年に発生した出版社の倒産件数および休廃業・解散件数は62件となり、これで2年連続60件以上の報告です。政府の様々な支援策にもかかわらず、倒産ペースはコロナ禍前の水準に戻っています(図3参照)。企業の声として、「印刷コストの上昇や出版取次の仕入れ制限により業績が厳しい」「書店の閉店が続き返品も増加している」といった悲観的な事例が聞かれます。特に雑誌市場の落ち込みが顕著で、最近では月刊誌「母の友」や老舗の「鉄道ジャーナル」、ライトノベル誌「ドラゴンマガジン」が2025年に休刊することが発表されています。

対照的に、電子出版は好調を維持しており、2023年の売上は前年比6.7%増、2024年上半期は前年同期比6.1%増という成長を見せています。電子出版の90%近くを電子コミックが占めており、アニメ化や実写化、ゲーム化といった多様なコンテンツ展開が市場を後押ししています。しかし、ヒット作品の欠如や違法コピーによる著作権侵害、各社は知的財産(IP)ビジネスやデジタル広告戦略を強化しています。

紙媒体の出版物の低迷が続く中、現状ではデジタルシフトや流通の効率化が重要な課題となります。業界の大手KADOKAWAは、2025年1月にソニーグループとの資本業務提携を発表し、IPビジネスを強化しデジタルコンテンツを通じて国外市場に進出する計画です。大手出版社においては新市場開発が加速すると期待されていますが、中小出版社は書店業務との深い関係の構築と読者ニーズに応える独自性が求められています。

出典元:株式会社帝国データバンク プレスリリース

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ