
ECは物販において販路や商圏を拡大する手段として話されることが多いですが、働き方が多様化する中で、自己実現の手段としても有効だと、ミウラタクヤ商店の店長である三浦卓也さんは話します。1人運営で、年商1億円を達成した三浦さんに、ECの働き方の可能性についてお聞きしました。
この記事の目次
1人で働くことに決めた理由
――まず、三浦さんが1人で仕事をするに至った経緯をお伺いしても良いですか?
三浦さん:1人で働き始める前、私は10年間社会人として企業に勤めていました。その間、我慢していたことがすごく多く、ストレスを貯めすぎて心が折れてしまうこともありました。組織で自分以外の人と働く以上、自分の思い通りに動くことはできないですし、時には意見が合わないことや気乗りしない仕事を振られることもあると思います。
例えば、上長への細かい報告や会社の成長のために部下を育成すること、効率的ではない組織のルールに従うことなど、会社の中で働く上で皆さんも少なからず感じたことがある我慢が積み重なっていました。
私は人間関係を築くのが苦手ではないものの、得意ではなかったのだと思います。勤めていた会社で営業組織の立ち上げをしていたときに、収益の多くの部分を私が上げていたので「独立しても食べていく分には困らないだろう」と思っていた部分もあり、独立をすることにしました。
独立に際して、社会保険事務所で社員を雇用する場合の保険料など諸費用を伺ったときに「人を雇うのは大変だ」と、金銭的な面からも1人でやっていくほうが良いのだろうと思うに至ります。
顧客と繋がる楽しさがある物販
――組織の中で感じるストレスについては共感できる人も多いと思います。独立当初「ひとりEC」で生計を立てていく不安はありませんでしたか?
三浦さん:実を言うと最初からECだけで食べていくとは思っていませんでした。そこで、「自分のスキルでお金をいただけることってなんだろうか」と考えたときに、今までに培ってきた自分の営業スキルとウェブの制作スキルを活かせば絶対に食べていけるという自信がありました。今の時代、クラウドソーシングで仕事を受けることもできますし、営業スキルさえあれば仕事を受けて生計を立てるのはなんとかなるのではないでしょうか。
私の場合は、EC事業者に営業をして、法人に依頼すると高くなる商品LPの制作を個人で安く受けて日中の仕事を埋めていました。がむしゃらに営業をするというよりは、会社を辞める前から想定していた制作のニーズがありそうな楽天市場の出店者にメールを送るなどして、受注につなげています。このとき、時給にして1万円くらいの単価で受けていたので、食べていくには困らないくらいの収入はありました。
もともと広告代理店で働いていたので、物販以外にも広告運用などインターネットに関するサービスをする選択肢もあったと思います。独立してから一時期広告の運用代行を受けていたこともありました。収益も上がっていたんですが、正直なところ、広告運用はつまらないなと思っていたんです。物販の場合は、お客様の声がダイレクトに届きます。また、直接お客様とコミュニケーションが取れることも含めて、すごく楽しいんです。
一方で、インターネットのサービスはどこか虚像のように感じてしまうところがあり、報酬はそれなりにいただける仕事ではありましたが、私にとっては面白みがなく、続けていくのが「違うな」と思ってしまったんです。

「ひとりEC」に大切な準備と心構え
――三浦さんの独立されてからの動きや、なぜ物販を選んだのかということがわかりました。これから「ひとりEC」を始める上で、挑戦するために必要な心構えや秘訣があれば教えていただけますか?
三浦さん:ECはすぐに利益が出ないです。食っていけるだけの利益が出るまで平均で5~6ヶ月ほどかかると思います。ECだけで食っていくには長い目で見たほうが良いため、副業として他の収入源を用意したほうが良いでしょう。そしてECの成果状況を見ながら徐々に副業の比率を減らしていくことが収入に困らずECサイトの運営ができるコツだと思います。
「EC運営で食っていきたい」と思うのであれば、一番大事なマインドがあります。それは、数字に関しては100%自分がコミットメントする覚悟を持つことです。1人でやる以上、誰のせいにもできないので、覚悟さえあれば何をやっても良いのではないかと思います。ただ、逆に言えば、そこだけコミットする覚悟があれば、本当に自由なので、冒頭のような人間関係で窮屈な思いをすることは少ないです。
そしてECサイトで独立する上では、自分が目指すものが何か明確にしたほうが良いでしょう。私の場合は、自己分析を言語化してノートに書き起こすことをたくさんやりました。例えば、ベンチャー企業に入社して「社会を変えるんだ」と強い気持ちで長時間、低い給与で働くケースがあると思います。突き詰めて自己分析をして、実は社会よりも家族が大事だったり、家族よりも自分が大事だったり、改めてまっさらに考えたときに気づけるものがあると思います。収入が欲しいのか、やりがいが欲しいのか、何が大切なのかなど、自分が目指すものを徹底して考えたほうが良いでしょう。特にお金のことはしっかり考えたほうが良いです。
健康食品を売る想いとこだわり
――1人でやるということは背中を押してくれる人がいなくなるので、自分をよく知り、何が原動力になるのか理解する必要があるということですね。三浦さんは「バターコーヒーのお店ミウラタクヤ商店」としてネットショップを運営していますが、このジャンルの商品を販売することになったのは、どのようなきっかけからですか?
三浦さん:健康食品を販売することになったのは仕入れのルートが元々あり、簡単に商品を作れることがわかっていたからです。ただ健康食品を販売しているにも関わらず、新卒から10kg太ってしまい、体調を崩してしまったことで「痩せないと」という気持ちが強くなりました。
せっかくだからと、自分のダイエット体験記をお店のコンテンツとしてSNSで発信していきました。情報を発信していくと、お客様からメッセージをいただくことが増えたことで、商品やダイエットについてお客様はコミュニケーションをとりたがっていることに気づけたのです。また、健康食品メーカー側がお客様とコミュニケーションを取っていないこともわかりました。
健康食品を販売したり、広告運用したりしていましたが、実は、元々健康食品業界そのものに不信感を抱いていました。全部が全部の健康食品メーカーではないですが、効きもしないサプリメントを芸能人とタイアップさせて、売上を伸ばすことや、「飲むだけで痩せる」と言うようなニュアンスの過激な表現で商品を売った担当者が評価されることも多く、私はそれが好きにはなれませんでした。
しかし、健康食品や栄養学、生理学を勉強するとサプリメントや健康食品は効率的に栄養を摂取する上で効果が期待できるため、見え方が変われば健康食品は素晴らしいものだということに気づけたんです。だからこそ、正しい商品の使い方や情報を広めないといけないと思い、商品の棚卸しをしたり、企画を考え直したりしました。
こういった流れからダイエットに関する情報を掘り下げていくと、日本の医療費と肥満に関係性があることがわかっていったのです。日本の医療費の問題は、自分の娘達の将来にも影響が出るため、自分の手で何かできることはないかと考えたときに、ちゃんとした形で健康食品を売ることだと思いました。

1人を継続するために取り組むべき「自分ごと化」
――ご自身の気づきを次につなげて、常に前進することで新たな気づきを得て、その気づきと発信の連続が積み重なって今の形になっているように感じました。「ひとりEC」を始めたいと思っているものの、何を売ったら良いかわからないと漠然としている方もいるかと思います。最後にこれから「ひとりEC」を始められる方に向けて、アドバイスいただけますか?
三浦さん:自分ごと化できる商品を販売するのが良いと思います。商品を作っているがなかなか売れないという相談をよく受けるのですが、「どうしてこの商品を選んだのですか?」と聞くと、売れそうだからという答えが返ってくることが多いです。
雑貨を販売しているが在庫が安定しないため、健康食品を売ろうか迷っている方から以前相談受けました。商品が溢れている現代の物販でお客様に商品を買ってもらうにはお客様の困りごとを解決する必要があります。そこで「今なにか困っていることはないですか?」と尋ねたところ、「近眼の自分が欲しいと思えるメガネラックがない」とのことだったので、「きっと同じ悩みの人が1万人はいるはずだから作ったほうが良いですよ」とお伝えしたんです。売れそうだから、と安易に商品開発するのでなく、自分と同じ悩みがある人がいることを想定して商品開発すべき、と伝えました。今まさに進行中ですが非常にモチベーション高く商品開発に取り組み始めるようになりました。
すごく好きになれそう!という商品か自分ごと化できない商品を高い熱量で販売するのは難しいと思います。どんな商品なら自分ごと化できるのかということは、自分のことを徹底して分析することで見えてくるでしょう。
ECはいかにリピートしてもらえるかが大切です。売れる商品を作っても、一時的なものでは意味がないですし、競合に真似されたらすぐに売上は減ってしまいます。リピートしてもらう、ファンになってもらうためには、何を売るかというよりも、どんなコトを提供できるかが鍵になります。だから自分が商品について自分ごと化できてなければ、永続的な販売は難しいと考えています。私はバターコーヒーを通じて、痩せたいと思っている方のサポートをしています。自分ごと化できるからこそ、誰よりもダイエットに関する知識を持っています。お客様の悩みに寄り添えます。
バターコーヒーは365日毎日飲んでいるからこそ、飲み方の組み合わせや、商品についていろいろと語れます。だからこそ、ずっとリピートしていただけますし、競合が商品を真似してもお客さんは流れづらいのです。これは自分ごと化できる商品を扱っているからです。
こういった形で、自分ごと化してお客様にコトを提供するためには自分を知ることが必要不可欠です。自分ってどういう人間なのだろうと5W1Hに合わせて考えてみたり、家族や友人に良いところ悪いところ教えてもらったり、とにかく色々な角度から自分のことを詳しくなると自分ごと化の糸口が見えてくるかと思います。ひとりECは自分の人格を売る感覚に近いため、自己分析は重要です。
働き方が多様化する中で、私のように何らかの理由で、組織で働くことが難しいという人はいるのではないでしょうか。そういう人に「ひとりEC」という選択肢があるということを知ってもらえたらと思います。

インタビューを通して:自分の道を開くために、自分を深く知ること
仕事を通じて社会経験を積み、就職活動で学生時代にした自己分析と今の自分が同じだという人は少ないかと思います。これから先の自分の人生をどのように歩んでいくのか考えるときに、三浦さんの自己分析のお話は「ひとりEC」に限らず重要になっていくことでしょう。特に、自分ごと化できる商品の選定や無理なく継続できる運用スタイルなど、ひとりECをする上で、自分を知り、自分をコントロールするために欠かせないものが自己分析であると感じました。
三浦さんはShopify認定教育パートナーとしてEC運営に関する相談を受け付けています。これから「ひとりEC」を始めたい、ネットショップを開設したいとお考えの方は下記URLよりShopifyのアカウントを発行し、LINE公式アカウントから三浦さんに相談してみてはいかがでしょうか。
▼Shopifyアカウント発行URL
https://www.shopify.jp/free-trial/miura-takuya
▼三浦さんのShopify認定教育パートナーLINE公式アカウント
https://line.me/R/ti/p/%40351ywgqv
▼著書「ひとりEC 個人でも売上を大きく伸ばせるネットショップ運営術」
https://amzn.to/3HJFjC0
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