帝国データバンクは、企業における生成AIの活用状況や課題について調査を実施しました。生成AIは業務効率化や人手不足への対応として期待される一方で、情報の正確性や管理体制、運用ルールの整備など、様々な課題が指摘されています。
生成AIは、もはや一部の専門家や大手企業だけが使う技術ではなくなっています。限られた人員で生産性を向上させる手段として、人手不足や賃上げへの対応、業務量の増加に悩む企業を中心に、関心が高まり続けています。
しかし、生成AIの利用が拡大するにつれて、単に「導入しているか否か」という点だけでは企業の実情を正確に把握することが難しくなってきています。実際の業務現場でどのように活用されているのか、どの程度の成果が得られているのか、さらに誤った情報、情報漏洩、著作権やプライバシーの問題、社員間での活用スキルの格差といった課題がどのように現れているのかを理解することが重要になっています。
そこで帝国データバンクは、生成AIの活用実態などについて詳細な調査を実施しました。この調査は、TDB景気動向調査2026年3月調査と同時に行われました。
この記事の目次
調査結果のサマリー
生成AIを業務で『活用している』企業は34.5%となりました。活用している企業のうち、「業務への効果が出ている」と回答したのは86.7%に達しています。主な活用業務としては「文章の作成・要約・校正」が最多で、「情報収集」「企画立案時のアイデア出し」が続きました。悪影響やトラブルについては「ない」が67.7%で最も多かった一方で、「使いこなし格差の拡大」が18.8%にのぼりました。懸念や課題では「情報の正確性」が50.4%で最も高く、「専門人材・ノウハウ不足」「活用すべき業務の範囲」「情報漏洩のリスク」などが続く結果となりました。
※調査期間は2026年3月17日から3月31日です。調査対象は全国2万3,349社で、有効回答企業数は1万312社(回答率44.2%)です。
企業の34.5%が生成AIを活用、大企業ほど活用率が高い傾向
生成AIを業務で『活用している』(「非常に活用している」と「やや活用している」の合計)企業は、全体の34.5%でした。内訳を見ると、「非常に活用している」が4.4%、「やや活用している」が30.2%となっています。一方、「あまり活用していない」は13.6%、「ほとんど活用していない」は23.3%であり、低活用層も約4割に達しています。「いまは活用していないが、今後の活用を検討している」は14.2%で、活用の余地を残す企業も一定数存在します。「活用を禁止している」企業は0.4%にとどまりました。生成AIはすでに一定程度普及しているものの、企業全体としては移行期にあると言えます。
規模別に見ると、企業規模が大きいほど活用率が高くなる傾向が明確に表れています。大企業では『活用している』が46.5%であるのに対し、中小企業は32.4%、小規模企業は28.0%でした。従業員数別でも同様の傾向が見られ、「1,000人超」では63.6%、「301~1000人」でも51.9%と高い水準である一方、「5人以下」は29.6%にとどまっています。
業界別では『サービス』が47.8%で最も高く、『金融』(38.6%)、『不動産』(34.9%)が続きました。一方、『建設』(26.4%)や『運輸・倉庫』(27.5%)は比較的低い結果となっています。業務の特性や社内体制の違いが、活用の進展度合いに影響していると考えられます。
企業からは、活用を積極的に捉えた「積極的に活用したい。生成AIに関連する技術や情報を有効に活用することは企業にとってメリットが大きい」(農・林・水産、小規模企業)という声がある一方で、「人がメインで補助的に活用するのは良いが、依存度が高くなり、人が思考しなくなるのが心配」(情報サービス、中小企業)といった慎重な意見も聞かれました。活用の是非そのものよりも、どのように使うかに対する関心が強いことが分かります。
主な活用業務は「文章の作成・要約・校正」が45.1%でトップ
生成AIを業務で活用している3,560社に、主にどのような業務で活用しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「文章の作成・要約・校正」(45.1%)でした。次いで、「情報収集」(21.8%)、「企画立案時のアイデア出し」(11.0%)が続いています。「データの集計・分析」は7.4%、「コード生成などのプログラミング支援」は5.9%にとどまりました。全体として、生成AIは現時点では、業務判断そのものを代替するというより、情報整理や文章化など、判断の前段階にある業務の補助として活用されている様子が見られます。
規模別に見ると、大企業では「文章の作成・要約・校正」への集中度が比較的高く、47.8%でした。一方、小規模企業では「情報収集」が25.2%と全体(21.8%)を上回っています。中小企業では、限られた人員の中で、情報収集やたたき台作成の効率化を重視している可能性があります。また、業界別では『サービス』において「コード生成などのプログラミング支援」が13.3%と高く、全体平均の5.9%を大きく上回りました。業種によって、文章作成中心の使い方に加え、専門業務への広がりも見られます。
企業の声からも、利用領域の広がりが確認できます。「契約書の確認」(製造、中小企業)、「議事録作成に活用」(医療・福祉・保健衛生、大企業)、「プレゼン資料、メール返信、ウェブ構築に非常によく活用している」(機械・器具卸売、小規模企業)など、業務特性に応じた活用が進んでいます。さらに、「一つに絞れない。情報収集、文書作成、データ分析、翻訳、プレゼン資料作成、動画作成等、いろいろ使っている」(情報サービス、小規模企業)との声もあり、単一用途だけでなく複合的に利用している企業も少なくありません。
業務への効果は86.7%が実感
活用企業に対して、生成AIの業務への効果を尋ねたところ、「大いに効果が出ている」(25.2%)と「やや効果が出ている」(61.5%)を合わせた『効果あり』は86.7%に達しました。「どちらともいえない」は10.3%であり、「あまり効果が出ていない」「ほとんど効果が出ていない」は合わせて1%程度にとどまっています。生成AIを実際に使用している企業の大半は、何らかの効果を実感していると言えます。
規模別では、小規模企業の29.7%が「大いに効果が出ている」と回答しており、大企業の20.8%を上回りました。人手の限られた企業ほど、文章作成や情報整理の効率化を実感している可能性があります。業界別では、『金融』『建設』『サービス』などでも『効果あり』は高水準にあり、全般的に高い評価が並んでいます。生成AIの活用が特定業種に限定されず、幅広い広がりを持っていることを示す結果となりました。
企業からは、「情報収集や、自分の見解の答え合わせができる点は非常に助かっている」(建設、大企業)、「事案の検討において、自力で一から取り組む場合と比較して、見落としや勘違いを防ぎ、時間を大幅に短縮できる」(建材・家具等卸売、小規模企業)といった声が寄せられています。生成AIは、作業の単純な自動化というよりも、情報整理や発想補助を通じて、業務のスピードや見落とし防止に貢献していると考えられます。
3社に2社が悪影響やトラブルを「ない」とする一方、能力や成果の格差拡大を約2割が認識
活用企業に対して、生成AI活用による悪影響やトラブルを尋ねたところ、「悪影響やトラブルはない」が67.7%で最も多くなりました(複数回答)。直接的なトラブルとしては、「出力結果の誤りにより社内外でトラブルや損害が発生した」1.3%、「会社の機密や保有する個人情報などが流出した」0.7%など、比較的低い水準でした。現時点では、重大な事故が広範囲に表面化している状況ではないと見られます。
一方で、比較的高かったのは、「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」の18.8%でした。大企業では23.6%と、全体を上回っています。活用が進む企業ほど、使いこなしの差が可視化されやすいことが分かります。また、「社員が業務をAI任せにして、仕事への意欲やスキルが低下した」4.0%、「若手が育たなくなった」2.2%といった、人材育成に関する懸念も一定数見られました。生成AIの影響は、事故としてよりも、組織運営や人材育成の課題として表れやすいと考えられます。
懸念・課題は「情報の正確性」が最多で50.4%
生成AI活用に関する懸念や課題として最も多かったのは、「情報の正確性」(50.4%)でした(3つまでの複数回答)。次いで、「専門人材・ノウハウ不足」(41.3%)、「生成AIを活用すべき業務の範囲」(40.0%)、「情報漏洩のリスク」(33.5%)、「トラブル時の責任所在などのルール整備」(25.5%)が続いています。これらの結果から、企業にとっての主要な論点は、導入の可否よりも、運用の仕組みや管理体制、人材面にあることが明らかになりました。
規模別に見ると、大企業では「専門人材・ノウハウ不足」や「情報漏洩のリスク」が比較的高く、情報管理や統治に対する意識が強くなっています。一方、小規模企業では「システム導入への資金不足」が比較的高く、コスト面の負担も課題となっています。
企業からの声では、「AIが時にうそを言う」「誤った情報を正解ととらえてしまいトラブルになった」といった正確性に関する指摘がある一方、「AIに頼る頻度が増えてスキルが低下する心配がある」「上長の確認と検証に手間がかかるようになった」といった組織的な課題への言及も見られました。活用が進むほど、ツールそのものの有効性よりも、使い方と確認手順が重要になることを示しています。
また、「AIをどう活用すれば期待する結果が出るのかという目的をしっかり計画して導入したい」「社内ルール整備と適切な運用が今後の課題」「人が主で補助的に活用するのはよいが、依存度が高くなり、人が思考しなくなるのが心配」といった声が寄せられています。生成AIの課題は、単なるコストや機能不足だけでなく、社内のルール、教育、責任分界の設計にあると見られます。
まとめ
今回の調査では、生成AIを業務で活用している企業が全体の3割台に達し、活用企業の多くが効果を実感している一方で、情報の正確性、専門人材やノウハウ不足、活用範囲、情報漏洩、ルール整備といった課題が上位に挙がりました。悪影響やトラブルそのものは限定的でしたが、使いこなし方の格差や検証負担、育成面での懸念が表れており、生成AIの導入が企業内の運用能力やレベル、教育体制を問う局面に入っていることが分かります。
今後の企業の取り組みとしては、まず、生成AIを活用する業務範囲を明確にし、最終判断や確認の責任を人が担うことを前提とした運用ルールを整備することが重要となるでしょう。また、情報管理のルールづくりや、出力内容を検証・編集するための社内教育も欠かせません。生成AIの活用が進むほど、ツール選定以上に、社内の標準的な使い方をどう整えるかが問われることになります。
このため、政策面では、とりわけ中小企業が活用を進める上で、情報管理や検証手順、ルール整備に関する実務的な支援が求められます。単純な導入促進だけでなく、運用を支えるガイドラインや教育機会、ノウハウ共有の枠組みを充実させることが、今後の普及と定着に貢献すると考えられます。生成AIは、導入そのものの有効性よりも、使いこなすための仕組みづくりが成果を左右する段階に入っていると言えるでしょう。
出典元:帝国データバンク プレスリリース











