空コンテナ不足・輸送費高騰による物流問題と物販業界への影響
ニュースの概要

経済産業省は、2021年4月23日に「コンテナ不足問題に関する連携の促進に向けて関係者による情報共有会合」を開催しました。コンテナ不足の問題が物販業界にどのような影響があるのか、情報共有会合で発表された資料をもとに解説します。

リリース元
https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210507003/20210507003.html

はじめに:経済産業省の情報共有会合で発表された資料

今、国際物流において空きコンテナの不足と国際輸送費の高騰が大きな問題となっています。この問題が浮上し始めたのが、2020年11月頃です。アメリカ合衆国と環太平洋地域をつなぐ重要な港湾であるロサンゼルス・Long Beachの混雑およびコンテナ船の沖待ちによる輸送遅延が発生し、それが世界の主要港に連鎖しました。現在に至るまで、世界的な空きコンテナ不足と輸送費高騰が継続しています。この問題の大きな原因となっているのが、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大です。

この問題の詳細と、国内物流への影響について、経済産業省が2021年4月23日に開催した「コンテナ不足問題に関する連携の促進に向けて関係者による情報共有会合」にて発表された資料「新型コロナが国際物流に与えた影響」(株式会社野村総合研究所 アーバンイノベーションコンサルティング部 モビリティ・ロジスティクスグループ プリンシパル 宮前直幸)をもとに解説します。

国際物流においてどのような問題が起きているのか?

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、国際物流に大きな影響を与えています。その代表的な問題が、空コンテナ不足と国際輸送費の高騰です。これらの問題の発端は、国際物流において大きな割合を占めている、中国・米国間の国際輸送にあります。

空コンテナ不足

1.新造コンテナの減少とコンテナ生産向上の稼働率低下

国際物流における空コンテナ不足は、2020年、新型コロナウイルス感染拡大により、世界経済の先行きに対する懸念とコンテナ生産工場の稼働率が大幅に低下したことから始まります。しかも、この前年の2019年にも、米中貿易摩擦の影響により新造コンテナ生産量が前年比40%減と激減していました。新型コロナウイルス感染拡大以前から新造コンテナが少ない状態になっていたところに、さらに生産量が低下したのです。

2.作業員や作業量の減少によるコンテナ処理能力の低下

しかし、中国で新型コロナウイルスの感染が拡大しはじめた2020年初頭は、自動車・機械・電機などの中国での生産および海上輸送が減少していたこともあり、目立った問題はまだ発生していませんでした。その後、中国では2020年4~6月頃から生産が回復、海上輸送が急増します。

作業員や作業量の減少によるコンテナ処理能力の低下

一方、米国では、中国より遅れて新型コロナウイルスの感染が拡大し、巣ごもり消費により家具・玩具・家電などの輸入が増加します。ロサンゼルス・Long Beachのコンテナ貨物量は、2020年8月以降に急増、前年水準を超えました。輸入が増加する半面、米国国内での生産の回復は遅れ、2020年7月以降となりました。

つまり、2020年6~7月頃から、米国に通常よりも多くのコンテナ貨物が集まる状態になっていたのです。ところが、米国の港湾では、新型コロナウイルスの感染拡大により対応できる作業員や作業量が減少しており、コンテナ処理能力が低下していました。

3.空コンテナ滞留によるコンテナ不足

これらの要因から、ロサンゼルス・Long Beach港湾に混雑が発生し、コンテナが滞留、中国をはじめとしたアジアに空コンテナが回送されない状況となりました。ヨーロッパでも同様の状況があり、世界的な空コンテナ不足に陥っていったのです。空コンテナが不足するということは、各国で新たな輸入・輸出に遅れが生じるということであり、国外での原材料の調達や生産、輸入商品の販売が予定通りに進まないことにもなります。

*世界のコンテナ輸送と就航状況 2020年版(日本郵船株式会社 調査グループ)より

国際輸送費の高騰

空コンテナの不足とともに、海上輸送・航空輸送双方の運賃の高騰も、国際輸送における大きな問題になっています。

1.空コンテナ不足と貨物滞留によるスペース不足

海上輸送については、米国西航では2020年7月、米国東航では 9月、欧州では11月、そして韓国・日本では12月から高騰しはじめています。これは、空コンテナの不足と、貨物滞留によるスペース不足が直接的な原因です。

2.国際旅客便の運休と緊急物資の輸送集中

航空運賃は、2020年4~5月に一度高騰、その後2020年6~9月に低下したのですが、2020年10月以降にまた高騰しています。そこには、世界的な新型コロナウイルス感染拡大と、海上輸送における空コンテナ不足が組み合わさって影響しています。

まず、2020年4~5月は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、国際旅客便が運休したことで、航空輸送の供給量が絞られました。さらに、マスク・個人用防護具などの緊急物資の輸送が集中したこともあり、航空運賃が高騰します。その後、2020年6~7月には、緊急物資の輸送が落ち着いたことと、航空運賃高騰を受けて海上輸送へシフトする貨物もあり、航空運賃が低下していきました。

3.航空輸送へのシフトによる航空運賃の高騰

ところが2020年10月以降、世界的に自動車部品、半導体・電子機器などの荷動きが回復したことと、空コンテナ不足が発生しはじめ、海上貨物の一部が航空輸送へシフトしたことで、再び航空運賃が高騰します。結果として、海上輸送・航空輸送いずれも運賃が高騰した状態になっているのです。

航空輸送へのシフトによる航空運賃の高騰

コンテナ不足の問題が物販業界へ与えた影響

空コンテナの不足は、物販において商品が購入者のもとに届くまでの、あらゆる段階に影響を及ぼしています。

原材料の調達ができず生産が遅れる

今回参考にした資料「新型コロナが国際物流に与えた影響」では、特に中国発の貨物の荷主である中国メーカーへの影響に言及しています。たとえば、短期的な影響としては、原料の調達先や生産拠点を国内に移転したり、在庫切れリスクを回避するために在庫水準を引き上げたり、輸送ルートを変更したりといった対応が行われていることがあげられています。国際輸送費の高騰により、売上高物流費が増加しているのも大きな影響です。中長期的には、商材の付加価値に応じた原料調達先・生産拠点の国内・国外の使い分けや、サプライヤーの多元化、物流の効率化を行っていく必要があるとされています。

中国に限らず、日本のメーカーや販売事業者にも同じような影響があります。メーカーであれば、原材料調達や生産拠点を海外に置いている場合は多いでしょう。その場合、空コンテナ不足による原材料調達の遅れから生産が遅れたり、生産したものの製品が日本に届くのが遅れたりする影響が生じます。原材料の調達先や生産拠点は早々変更できるものでもないですし、空コンテナ不足がいつまで続くか見えないなか、大きな変更は行いにくいため、生産や販売を調整しながら、なんとかしのいでいるという状況も多いはずです。

海外からの輸入商品不足

また、販売事業者であれば、海外から輸入している商品が予定通り届かないということや、国内仕入れ商品でも、仕入れ元の生産に海外からの輸入が絡んでいる場合は、商品が不足するという影響があります。このため、余裕をもって在庫を持つ必要があり、国際輸送のコスト高騰と合わせて、物流コストが大きくなります。

こういったメーカーや販売事業者への影響は、購入者には一見分かりませんが、問題が長期化すれば、いつも購入している商品やすぐにほしい商品が入荷待ちで手に入らない、あるいは販売料金の値上げといった形で、購入者にも影響を与えるようになります。

最後に:今後の国際物流の動きに注目

日本貿易機構のビジネス短信によると、空きコンテナの不足と国際輸送運賃の高騰は2021年夏頃には収まるのではないかという予想があります。しかし、新型コロナウイルスの先行きはまだ不透明なところがあるため、世界的な動きを引き続き注視していく必要があります。世界的に見ると、新型コロナウイルスが抑え込まれつつある国・地域があるものの、世界全体で感染拡大がすぐに収束することは難しいと考えられます。短期的な対応だけでなく、中長期的にどのように対応していくか、国際物流の動きを見ながら考える必要があります。

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