株式会社電通(本社:東京都港区、代表取締役 社長執行役員:佐野 傑)が、テレビCMが生活者の行動変化にどの程度寄与したかを分析・評価できるツール「Response Lift Checker(レスポンスリフトチェッカー)」を開発し、分析パッケージの提供を開始したことが発表されました。このツールにより、テレビCM出稿前に生活者の行動変化の予測や競合比較が可能となり、効果的なCM制作をサポートします。

開発の背景

広告業界では、テレビCMの効果を定量的に評価することが重要課題となっています。近年、商品やサービスの指名検索数(特定の企業名やブランド名、商品名を明示的に含めた検索)やアプリダウンロード数を、ブランド力やマーケティング投資対効果(mROI)の指標としてKPI設定する企業が増加傾向にあります。しかし、これまではテレビCMにおいて、どのクリエイティブ表現の要素が効果的であったかを詳細に分析することが難しく、効果を高めるための判断が困難な状況でした。

今回電通が開発した「Response Lift Checker」は、この課題を解決するツールです。過去のテレビCMのクリエイティブ表現を「有名タレントの出演」や「季節感の訴求」など、各業界に特有な約100項目の表現要素に分解し、外部データと連携させることで、指名検索数やアプリダウンロード数といった行動指標との関連性を明らかにします。これにより、テレビCM出稿後に広告素材がどのように生活者の行動変化を促したか、また、どのクリエイティブ要素がその行動変化に貢献したかを統計的に算出することが可能になりました。

ツールの特徴

このツールの特徴は、以下の3点にあります。

  1. 業界内における広告素材ごとの行動変化の比較
    同業種内での広告効果を比較分析することができます。
  2. クリエイティブの各表現要素の貢献度の把握
    どの表現要素が生活者の行動変化に大きく影響したかを明確にします。
  3. 表現要素の組み合わせによる行動変化の予測
    複数の表現要素を組み合わせた場合の効果予測が可能になります。

これらの機能により、より高い効果が期待できるテレビCMクリエイティブへの具体的な示唆が得られるほか、業界ごとに特有のクリエイティブ表現要素についても評価することができます。例えば、金融業界ではどのような表現が効果的か、飲料業界ではどのような要素が消費者行動を促進するかといった具体的な知見を得ることが可能です。

テレビCMは依然として日本の広告市場において重要な位置を占めています。デジタル広告の台頭により、広告費の配分は変化しつつありますが、ブランド認知や信頼性の構築において、テレビの影響力は依然として大きいものがあります。しかし、その効果測定の難しさから、投資対効果の説明が難しく、予算配分の判断において不利な立場に置かれることもありました。

「Response Lift Checker」の登場により、テレビCMの効果がより具体的な数値として把握できるようになることで、マーケティング担当者がテレビ広告への投資判断をより科学的に行えるようになります。これは単に効果測定の精度を上げるだけでなく、クリエイティブの質を向上させるための指針としても機能するため、広告業界全体にとって大きな前進と言えるでしょう。

電通では、国内電通グループ独自のAI戦略「AI For Growth 2.0」に基づき開発中のAIエージェントに本ツールを搭載する準備を進めているとのことです。この取り組みは、2025年5月19日に発表された国内電通グループのAIネイティブ化を加速する戦略の一環として位置づけられています。

「Response Lift Checker」の導入により、テレビCMの効果測定がより精緻になるだけでなく、クリエイティブ制作の意思決定プロセスにおいても、データに基づいた科学的なアプローチが可能になります。これはクリエイティブの質を犠牲にするものではなく、むしろ創造性とデータ分析を融合させることで、より効果的な広告表現を追求する動きと言えるでしょう。

また、近年注目されているマーケティングミックスモデリング(MMM)のアプローチとも親和性が高く、複数の広告チャネルを組み合わせた際の相乗効果を測定する上でも、このツールが提供するデータは重要な役割を果たすことが期待されます。

今後の展開

広告業界全体がデジタルトランスフォーメーションを進める中、マーケティング活動の成果を可視化・数値化するニーズは今後さらに高まると予想されます。電通は今後も広告効果の精緻な分析を通じて、顧客のマーケティング活動の最適化と事業成長に貢献していくとしています。

このツールの活用により、テレビCMという従来型メディアの価値を最大化しつつ、デジタル時代の消費者行動変化を捉えるという、新旧メディアの橋渡しが実現することが期待されます。特に、広告投資効率が厳しく問われる現代において、効果測定と次のアクションへの示唆を同時に提供できる点は、多くの広告主にとって価値あるソリューションとなるでしょう。

電通によれば、今後はこのツールをさらに発展させ、テレビCMと他のデジタル広告との連携効果の測定や、より短期間でのフィードバック提供なども視野に入れているとのことです。広告主企業のマーケティング部門だけでなく、制作会社やクリエイターにとっても、自らの制作物の効果を具体的に把握できることで、クリエイティブの質の向上につながることが期待されます。

テレビCMを取り巻く環境は、動画配信サービスの普及やスマートテレビの登場により大きく変化しています。こうした中で、従来のテレビCMの価値をデータで証明し、さらに向上させていくための取り組みとして、「Response Lift Checker」の登場は時宜を得たものと言えるでしょう。広告主にとっては、限られた予算の中で最大の効果を得るための意思決定ツールとして、また広告代理店やクリエイティブエージェンシーにとっては、自社の強みを数値で示すための武器として活用されることが期待されます。

なお、電通では本ツールを活用した分析パッケージの提供を開始しており、各業界の顧客企業向けにカスタマイズしたサービス展開も視野に入れているとのことです。

出典元:株式会社電通 プレスリリース

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