
株式会社タナベコンサルティング(本社:東京都千代田区・大阪市淀川区、代表取締役社長:若松孝彦)は、先日開催された「経営戦略セミナー2025」に参加した経営者や幹部を対象に、新たに全国の企業オーナー、役員、幹部、経営企画部の責任者及び担当者を対象とした「2025年度企業経営に関するアンケート」の結果を発表しました。
1.調査結果サマリー
(1)2024年度及び2025年度の業績見通しに関する調査によると、2025年度に向けて「増収増益」と回答する企業が増え、「減収減益」の割合が減る傾向が見られ、業績改善への期待が高まっています。一方で「不明」と回答する企業も増えており、不確実性は依然として高い状況です。
(2)中長期的な戦略の重点テーマには、「収益改善」と「新商品・新事業開発」が多くの企業から支持を集めました。企業規模別では、中堅・中小企業は「新商品・新事業開発」を重視し、大企業は「グローバル戦略の策定」を重視しています。また業績見通しの観点では、「新商品・新事業開発」を予定している企業が、増収増益及び増収減益を見込む企業の中で最も高い支持を受けました。
(3)事業ポートフォリオ・M&A戦略においては「新規事業開発」が重視され、人的資本戦略では「人材育成プログラムの強化」や「人材採用」が挙げられました。ブランディング戦略では「ブランド認知度の向上」や「従業員のブランド意識向上」が重要視され、DX(デジタルトランスフォーメーション)の分野では「データ分析・活用体制の構築」が求められる結果も得られました。
2.各データ詳細
(1)業績予想には全ての企業規模で業績改善への期待が見て取れる一方で、不確実性も残る傾向が強いです。
大企業では、増収増益の見通しが41.9%から52.4%に増加しており、特に顕著な成長が見込まれています。中堅企業でも同様の傾向が見られ、増収増益の割合は増え、減収減益の企業は減少が確認されています。中小企業の増収増益の割合は36.0%から41.4%に上昇し、減収減益の企業は17.1%から5.6%に減少しています。世界経済はインフレの落ち着きから安定した成長が期待され、日本経済も賃上げやインバウンド増加によって内需が支えられ、実質成長率の回復が予測されています。特に大企業は変化するグローバル経済に迅速に対応できるため、成長の恩恵を受ける可能性が高いとされています。しかし、2025年度の「不明」と見なされる回答が増加していることが示す通り、不確実性は依然として存在しています。米国の政治情勢や中国経済の動向が不透明であり、企業はリスク管理を強化し、柔軟な経営戦略を構築する必要があるといえます。
(2)中長期戦略での重点テーマには、「収益改善」は最も多く、続いて「新商品・新事業開発」が40%を超える結果となっています。
中長期戦略において重要視されるテーマでは、「収益改善」(55.6%)が最も多く、「新商品・新事業開発」(44.5%)や「人的資本経営・人材育成・採用」(33.3%)が続きました。多くの企業が収益性の向上と新たなビジネスチャンスの創出に注力していることが分かります。また、人材の獲得や育成がそれに伴う基盤だという意識も見受けられます。その他には「事業ポートフォリオの戦略策定・転換」(23.2%)や「組織再編」(21.3%)も上位にあり、企業が競争力の向上を目指していることが伺えます。一方で、「ESG・SDGs対応」(4.7%)や「コーポレートガバナンス・コード対応」(1.4%)は比較的低い結果に留まっています。企業はまず収益性の確保を重視しており、その実現には人的資本の強化が不可欠との共通認識が見られますが、長期的な持続可能性にも配慮する必要があります。経営者には、これらのバランスを考慮した総合的な戦略を策定することが求められています。
(3)事業ポートフォリオやM&A戦略のテーマでは、「新規事業開発」が多くの企業において重視されています。
2025年度に注力すべき事業ポートフォリオ及びM&A戦略には、「新規事業開発」が最も多く選ばれました(56.9%)。続いて「事業ポートフォリオの最適化」(48.3%)、「シナジー効果の最大化」(35.4%)が上位を占めています。経営者は新たな成長機会の創出と既存事業の組み合わせによる全社的な効率向上に焦点を当てているようです。成長戦略として新たな事業の開発を指針としつつ、M&A候補を見つけることや提携を通じて価値を生み出すことを意識していると考えられます。今後はこれらの戦略を効果的に推進するための実行力を強化し、統合後にシナジーを実現する取り組みが重要になるでしょう。
(4)人的資本戦略では半数以上が「人材育成プログラムの充実」と「人材採用」を重要視しています。
「人材育成プログラムの充実」(52.4%)と「人材採用戦略の強化」(48.6%)が特に目立っており、企業は人的リソースの質的向上及び量的確保に大変力を入れています。他にも「人事制度・評価システムの見直し」(34.1%)や「従業員エンゲージメントの向上」(31.5%)にも関心が寄せられています。この傾向から、労働市場の変化やデジタル化に対応し、競争優位を維持するためには優秀な人材の確保と育成が不可欠だという意識が高まっていることが伺えます。また、人事制度の見直しを通じ、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高め、生産性向上を目指す意図も感じられます。今後、企業は人的資本への投資をさらに強化し、持続可能な成長を追求する必要があります。
(5)ブランディング戦略においては、52.5%が「ブランド認知度の向上」、44.6%が「従業員のブランド意識向上」を重視しています!
ブランディング戦略の中では、「ブランド認知度の向上」(52.5%)が最も多く回答を得ました。さらに「従業員のブランド意識向上」(44.6%)や「ブランドビジョンの策定」(34.2%)が続いています。これによって、経営者はブランドの外部への広がりに加え、社内でのブランド理解や共感を重視していることが分かります。また、「PR活動の強化」(24.9%)や「顧客体験の最適化」(21.1%)も一定の支持を受けており、顧客との接点でのブランド価値を向上させる施策や、ブランドの魅力を伝える活動への期待も見て取れます。一方で、経営者はブランドの基盤を確立する段階では、認知度の向上と内外のブランド意識の統一を優先していると推察されます。長期的なブランド価値向上には、ブランドロイヤルティの強化や価値の定量化といった戦略も同時に考慮すべきです。
(6)DX戦略では「データ分析・活用体制の構築」が最も重要視され、「デジタル技術を活用した新規事業開発」や「顧客体験のデジタル化」は優先度が低めです。
DX推進のための経営テーマとして、2025年度で優先するべきは「データ分析・活用体制の構築」(33.2%)が最も支持されています。続いて「AI・機械学習の導入と活用」(31.3%)及び「ITインフラの整備・強化」(29.2%)が重要な位置を占めています。数字に基づく経営基盤の構築が重視されています。また、「業務プロセスのデジタル化・自動化」(28.9%)や「DX戦略の策定とロードマップ作成」(28.8%)、さらには「デジタル人材の育成・確保」(28.8%)も高い関心を持たれています。効率的な業務運営や組織全体でのデジタル化推進が期待されています。一方で、「サイバーセキュリティの強化」(20.9%)や「クラウドサービスの活用」(16.2%)は中位に位置し、最初に基盤を強化することが求められる段階にあるとも考えられます。今後はこれらの基盤を活用し、競争優位性を高める努力が必要です。
(7)企業規模別の重点テーマでは、中堅・中小企業は「新商品・新事業開発」、大企業は「グローバル戦略の策定」を重視しています。
2025年度以降の中長期計画において、規模別に重要なテーマを分析すると、「収益改善」が全ての企業規模に共通する課題であり、大企業58.1%、中堅54.9%、中小企業55.9%が重視していることが明らかです。企業の成長や持続可能性には、規模にかかわらず、収益構造の見直しや効率化が求められています。しかし、「新商品・新事業開発」は中堅・中小企業で40%を超える結果が示され、大企業では35.5%にとどまっており、企業規模が大きくなるほど既存事業の強化に注力する傾向が顕著です。また「グローバル戦略の策定」に関しては、大企業が他の企業に比べて高い結果を出しています。
各企業規模の課題や成長戦略には違いが見受けられますが、収益改善と新規事業の開発は全企業に共通するテーマと考えられます。その中でも、大企業はグローバル展開や持続的成長を意識していることが伺えます(企業規模2,001人以上が大企業、100人超~2,000人以下が中堅企業、100人以下が中小企業)。
出典元:株式会社タナベコンサルティング プレスリリース