【楽天市場 2023年下期戦略共有会まとめ】成長の理由は「楽天経済圏の活用」と「楽天市場の進化」
ニュースの概要

楽天グループ株式会社(以下、楽天)は2023年8月2日に『Rakuten Optimism 2023』で楽天市場の出店店舗向けに2023年下期戦略共有会(以下、本イベント)を開催しました。全体戦略とシステムに関する内容の二部構成で展開していた本イベントを、要点をまとめて紹介していきます。

全体の事業戦略

2022年は国内EC流通総額が5.6兆円を突破し、堅調に成長しているとのことです。この規模でもなお、二桁成長していることを強調していました。オフライン回帰と言われている2023年1~3月も順調に二桁成長を続け、2020年比で客単価+16.6%、購入者数は+29.1%とコロナ前と比較した数値を発表されています。

コロナが明け、オフライン回帰の流れで、インターネット系のサービスが苦戦する中、楽天市場が堅調に成長している理由に「楽天経済圏の活用」と「楽天市場の進化」を挙げていました。

楽天経済圏の活用

楽天経済圏においてポイントは象徴的なものと言えます。既に累計で3兆ポイントを発行し、日本の家計に大きなインパクトを与えています。複数サービスを展開する楽天経済圏とポイントの架け橋がSPU(スーパーポイントアッププログラム)です。その利用者数は年々伸び続け、年平均成長率は+20%となっています。

特に楽天市場とのシナジーが強いサービスが楽天モバイルと楽天カードです。楽天市場の年間購入金額をそれぞれのサービスを利用していないユーザーと比較すると、楽天モバイルユーザーは+41%、楽天カードユーザーに至っては+116%と2倍以上も開きが出ていることがわかっています。

楽天市場の進化

楽天市場が成長を続けるもう一つの理由である「楽天市場の進化」のパートでは、リリース済みの機能や今後リリース予定の機能など、多くの情報が共有されました。キャッチアップできていない方向けに簡潔に紹介します。

ユーザーを飽きさせず堅調に伸びる大型イベント

スーパーSALEやお買い物マラソンは既にかなり大きな流通を生み出しつつも、4年間の平均成長率が+23.8%と堅調に成長を続けています。買い回りイベントに加えて、シーズナルギフトの特集やゲーミングイベントなど販売機会を多様化して飽きのこない購買体験を提供していることが理由の一つだと話されていました。

楽天運営のSNS「ROOM」が若年層に浸透

楽天が展開するSNS「ROOM」は、20代以下の購入者数が2021年比で3.3倍に。店舗とインフルエンサーのコラボ商品をROOM上で展開する動きにより利用者数が伸びています。

会員ランクに合わせたRPP広告の単価設定

すべてのユーザーに同じ入札単価で掲載を行うRPP広告は、2023年Q4を目処に会員ランクごとに異なるポテンシャルを捉えられるよう単価を変化する予定です。ゴールド会員を起点にロイヤリティの高いダイヤモンド会員・プラチナ会員は+25%、一方でロイヤリティの低いシルバー会員・レギュラー会員は-80%の間で自動最適化された単価設定になります。

ターゲティングディスプレイ広告(TDA広告)の露出場所の拡大

2023年5月から、TDA広告の露出先は楽天市場以外の楽天グループメディアへと拡大されています。楽天市場だけでは接触できない新規ユーザーへもアプローチ可能になりました。

楽天外への広告出稿

2023年11月以降、RMSプロモーションメニューからSNS・検索など楽天外のメディア広告を配信できるように調整中とのことです。

ライブコマース「楽天市場ショッピングチャンネル」

楽天市場で多様な売り方を推進するにあたって欠かせないライブコマース「楽天市場ショッピングチャンネル」の機能拡充も行われる予定です。2023年6月にはライブコマースを視聴しながら買い物ができるピクチャーインピクチャーの機能がリリースされました。対応デバイスは順次拡大中とのことです。さらに、2023年7月以降、商品ジャンルに特化したライブコマース企画の展開を予定していると発表されています。

レガシーなシステムを刷新する定期購入機能

定期購入の機能は全面的にリニューアルする予定と発表されていました。「定期購入」は重要な機能である一方で、楽天市場の定期購入機能は課題を抱えていると話されています。2024年以降の完全リニューアルを目指し、店舗・ユーザー共に使い勝手の良い機能を目指すとのことです。

一例として、別々の商品ページが必要な通常商品と定期商品を、同じ商品ページで表示できるようなUI設計を予定しています。また、月額5,000円かかっていた固定費を廃止し、定期購入の利用ハードルを下げる取り組みを始めるとのことです。

2023年4月には「定期購入」のUIリニューアルが行われ、最短3クリックで申込みが可能となり、転換率が大幅に向上したとの発表がありました。

有料化にともない機能拡充を予定するクーポン

2024年以降、クーポンは機能を充実し進化させる予定です。

  • ユーザーセグメント機能の拡充
  • 設定表品数を5,000商品へ引き上げ
  • 公開設定の利便性の向上(クーポン発行後の設定変更など)

など、機能拡充を進める一方で、機能提供から無料キャンペーンを行っていたクーポンの利用は2024年3月末を以降、有料になる予定と発表されました。詳細は8月末のサポートニュースで公開予定とのことです。

店舗ページの編集機能拡大

売り場を魅力的にするため、新店舗トップページの編集機能を他ページにも順次拡大する予定です。パーツ分析や楽天のユーザーデータを活用したターゲティングも可能になるとのことです。

・対応完了済みのページと今後の予定

2022年4月:スマホ用店舗トップページ
2023年6月:PC用店舗トップページ
2024年3月頃:コンテンツページ
2025年~:商品ページ/カテゴリページ

なお、GOLDスマートフォン版店舗トップページの提供は2023年12月をもって終了すると発表されました。

コンテンツページはセール・イベント情報や店舗・商品紹介、FAQやお買い物ガイドをノーコードで自由に編集できるページになる予定です。ページをブックマークしたユーザーに対し、そのページを更新した際に、通知を出す機能も検討されています。

コンテンツページの公開と同時期に、店舗ページ改善のための新パーツの提供も予定されています。新規の方向けやリピーター向けに画像パーツを出し分ける機能や、動画の埋め込み機能、条件設定により商品の絞り込みを行える機能などが挙がっていました。

「R-Messe」の機能向上

楽天市場全体のCVRと比較し、問い合わせを経由するCVRは+16.1ポイント高いことが明らかになっています。しかし、「R-Messe」には店舗のオペレーションが一部煩雑になる課題も挙がっています。ノウハウの提供やオペレーション負荷の軽減する機能を拡充し、R-messeの活用をもっと拡大したいと話されていました。

2023年9月を目処に「R-Messe」を介して発生した売上を閲覧できるレポートが公開される予定なので、店舗においては売上につながる施策として人員を充てることも検討できるようになるのではないでしょうか。

楽天SKUプロジェクト

本イベントの発表時点で既に50%以上の店舗が移行完了し、9月末までに95%、2024年3月には100%完了を目指すとのことです。既に10,000以上の商品ページが価格の違いを表現するページへと変わっており、ユーザーからかなり使いやすくなったという声が上がっていると話されていました。

インボイス制度対応

2023年10月1日より開始されるインボイス制度に向けて楽天市場でも対応を進めています。2023年4月からインボイス登録番号の届出が始まりました。9月中にユーザー向けに適格請求書を領収書に統一すること、全取引での適格請求書を出力すること、適格請求書の保存が行われる予定です。また、10月中に楽天からの請求/支払書はインボイス制度に則った形になります。

「物流の2024年問題」に対応する楽天市場

3,980円以上を送料無料とする送料込みラインの取り組みから3年で導入店舗が95%突破を突破しました。この取り組みによりユーザーからは配送の満足度が非常に良い状態になっているという調査結果が出ています。

多くの課題が挙がる物流業界に楽天市場としてさまざまな機能や取り組みを行っています。

お届け可能日の表示

2023年6月に最短のお届け可能日をわかりやすく表示する機能がリリースされています。これにより、転換率が13%改善したとのことです。

従来は「1-3営業日以内に発送」と記載されていたお届け可能日が「15時までの注文で最短8/3お届け」といったように、より具体的に表記されるようになっています。

そのため、出荷元住所、出荷リードタイム、注文締切時間をRMSに入力する必要があります。配送キャリアと連携した配送日数から商品ページにお届け可能日が表示される仕組みになっています。楽天SKUプロジェクトの移行ができている店舗に対応した機能とのことです。

お買い物かご仕様変更/急がない便(仮称)

ユーザーがよりわかりやすく日付を選べるようお買い物かごのUIを変更されました。ユーザーが配送日を誤認しないことや再配達を軽減できる取り組みになることが目的だと話されています。

検索順位にも影響予定「配送認定ラベル」

2024年6月を目処に、ユーザーからの異なる配送ニーズに応えられている店舗・商品に配送認定ラベルを付ける準備が進んでいます。認定されることで検索順位が優位になるとのことです。

現時点で発表されている認定基準は下記のとおりです。

-店舗基準

  • 納期遵守率96%
  • 6日以内お届け件数比率:80%以上
    ※一部の分類に属する商品は計算から除外
  • 出荷件数:100件/月以上
  • 共通の送料込みラインの導入

-商品基準

  • いつでも出荷可能
    ※年末年始/月1回の休業日を除く
  • 午前の注文を翌日お届け可/午後の注文を翌々日お届け可
    ※土日祝日は、午前9時までの注文を翌日お届け、午前9時以降の注文を翌々日お届け
  • 日付指定可能

2023年の年明け以降、楽天タウンミーティング(出店者向けのイベント)などを通してさまざまな店舗と話をし、基準をアップデートしてきたとのことです。意味のある基準に店舗と一緒に進化させられたのではないかと思っていると話されていました。

また、配送認定ラベルを判定する上での基本データとなる「配送品質向上制度レポート」が2023年Q4に公開される予定です。配送認定ラベル制度の導入前に自社の配送品質を向上させることが可能になります。

一元管理システム「BOSS」の改善

RSL・外部システムとの連携強化について触れられていました。

RSLに商品を入荷する際、

  • 複数表品をまとめて登録
  • 一部入荷商品キャンセル
  • バーコード印刷機能
  • 僅少在庫からの入荷予定作成

などの機能が2023年Q4を目処に強化されます。

また、外部システムとの自動連携強化として、従来CSVによって行われていたシステムの連携をAPIで連携できるよう2024年Q1以降順次強化すると発表しています。

楽天スーパーロジスティクス(RSL)の進化

配送品質を上げるためにRSLも進化しています。2023年4月から母の日に合わせてギフトシール(熨斗など)を貼付する新オプションの運用が開始しました。今後拡充されるサービスとして、180サイズ以上の特大サイズ取り扱いやメール便翌日お届け対応が予定されているとのこと。

また、日本郵便との協業による直送化を拡大する予定との発表もありました。従来は、楽天フルフィルメントセンター(物流倉庫)から引受局、配達区分局、配達局と、配達局に行くまでに地域によって複数の局をまたいで商品が運ばれていました。直送化により、楽天フルフィルメントセンターから配達局に直接商品を持ち込むことで、配送スピードを向上する狙いがあります。

将来的には商品の売れ方を考慮しながら在庫の最適配置を全国の楽天フルフィルメントセンターで実施し、最適な配送時間の実現を目指すとのことです。

AIの活用による楽天市場の進化

「楽天市場」におけるAI技術の活用事例として、「商品レコメンド」「広告のターゲティング」「商品の価格最適化」などが挙げられていました。

直近は大規模言語モデル(LLM)と生成AIをどうやって活用するのかがテーマと話されていました。直近話題になっているこの技術をショッピングと組み合わせてどのように進化させるか、あらゆる可能性を考えているそうです。例として、将来的に検索がなくなる可能性やテールの商品に光が当たる可能性などを挙げられていました。

具体的な活用方法として、検索ロジックの改善の話も挙がっていました。セマンティック検索を取り入れることで、検索バーに入力された文の意味を解析し、近しい商品の表示ができるようになるようです。楽天ファッションで試験運用している結果として、売上の向上やゼロヒットの減少に繋がり、一定の効果が出ていると話されていました。

店舗サポートのさらなる強化

ECC(ECコンサルタント)の質的なサポートを向上することについて触れられていました。マーケティング部門で使うようなツールもECCを通じて店舗が使えるようにしていくとのことです。

「楽天Nations」の累計参加店舗数は11,000を突破し、楽天大学からは80%以上の店舗が学びを得ています。店舗コミュニティのさらなる拡大を目指し、この点にも継続的に力を入れるそうです。

タウンミーティングや楽天市場サービス向上委員会など店舗とのコミュニケーションを継続的に実施し、コミュニケーションの量と質を増やして楽天市場の進化の実現を目指すと話されていました。

発表を聞いて:ユーザーニーズに応えて進化するモールであり続ける

今回の戦略共有会では注目を集めるSKUプロジェクトや物流の2024年問題に対応するさまざまな機能改善の話が挙がっていました。ポストコロナの今、ECでの買い物が当たり前になったユーザーはオフラインでの買い物へと回帰していますが、買い物の場はオンライン・オフライン問わず多様化している状況です。

多くの店舗が軒を並べる楽天市場において、社会の変化に合わせて行われる機能改善は出店店舗にとって手間や一部の売上が損なわれるリスクを生み出すものかもしれません。しかし、変わりゆくユーザーに売り場が適応していかなければ、より快適な買い物ができる場所へと一瞬で移ってしまうのがECです。出店店舗にとっては宿命ともいえるECモールの変化への対応ですが、使いこなして売上・利益を伸ばせることを応援しています。

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