千葉大学研究チーム、ショッピングモール訪問が悪天候時の歩数減少を抑制する効果を全国調査で実証

千葉大学予防医学センターの研究チームが、ショッピングモールへの訪問が悪天候日における歩数の減少をどれほど抑えることができるのかについて、大規模な調査研究を実施したことを発表しました。研究チームは特任助教の吉田紘明氏、准教授の花里真道氏らで構成され、全国の18,666名を対象に1年間にわたる歩数データの詳細な分析が行われました。

調査の結果、ショッピングモールを訪れた日は訪れなかった日と比較して、平均で1,269歩も多く歩いていることが判明しました。さらに注目すべき点として、悪天候の日にはこの歩数の差がより顕著に拡大することがわかりました。具体的には、寒冷日には94歩、猛暑日には37歩、降雨日には83歩、積雪日には156歩、強風日には19歩と、それぞれの悪条件下で追加の歩数増加が確認されています。

特筆すべきは、こうした歩数の増加効果が、高齢者層や人口密度の低い地域に住む住民において、より一層顕著に見られたという点です。この研究成果は、ショッピングモールが悪天候時においても歩行活動を支える有効な環境として機能する可能性を示しており、今後の都市計画において、悪天候や極端な暑さに対する回復力を高めるデザインを推進する上で、重要な知見を提供するものとなっています。

なお、本研究論文は2025年11月27日付で、国際学術誌「Journal of Urban Health」において公開されています。

研究の背景と目的

昨今、気候変動の影響により、猛暑日や集中豪雨といった極端な気象現象の発生頻度が増加傾向にあります。こうした悪天候は屋外での活動を大きく制限し、身体活動量や日々の歩数の減少と密接に関連していることが、これまでの研究で報告されています。

歩数の多さは、死亡リスクの低減、認知症リスクの低減、メンタルヘルスの良好な状態の維持など、さまざまな健康指標と関連性があるため、悪天候下においても歩行を支援できる環境を整備することは極めて重要です。ショッピングモールは、悪天候の影響を受けにくい歩行環境として機能するだけでなく、熱中症予防に貢献する暑熱避難施設としても注目を集めています。

しかしながら、これまでショッピングモールへの訪問が実際に悪天候日の歩数減少を抑制するかどうかを検証した研究は存在しておらず、研究チームは今回この課題に取り組むこととなりました。

研究の概要と実施方法

研究対象者について

研究チームは、国内のショッピングモールの中から、当該モールが提供するスマートフォンアプリケーション機能を利用可能な144店舗を選定しました。2022年10月から12月にかけて、アプリ利用者を対象としたアンケート調査が実施され、回答が得られた18歳以上の18,666名(女性72%、平均年齢48歳)が分析対象とされています。

実施方法の詳細

対象者の2023年1月から12月までの1年間における日々の歩数データ(延べ約500万日分)に、天候情報と当該ショッピングモールへの訪問記録を統合して分析が行われました。

分析方法の詳細

天候については日別で評価が行われました。最高気温については、15.1~34.9℃の日を基準日とし、15.0℃以下の日を寒冷日、35.0℃以上の日を猛暑日として定義されています。降雨量は0mmを基準日とし、0.1~4.9mm、5.0mm以上に分類されました。積雪深については0cmを基準日とし、0.1~2.9cm、3.0cm以上に分類されています。風速は1.74m/s未満を基準日とし、1.74~2.50m/s、2.50m/s超に分類されました。

分析にあたっては、性別、年代、教育年数、就労状況、等価所得、婚姻状況、車の運転状況、ウォーキング習慣、BMI(Body mass index)、主観的健康感、平日・週末の違い、人口密度といった要因の影響が統計的に取り除かれました。その上で、マルチレベル線形回帰分析という手法を用いて、ショッピングモール訪問と天候(最高気温、降雨量、積雪深、風速)、そしてそれらの交互作用を含めて、歩数との関連性が詳細に検討されました。

さらに、女性や高齢者、非都市部居住者では身体活動量が低いことがこれまでの研究で報告されているため、これらの属性との関連性(3変数交互作用)についても検討が行われています。

研究で明らかになった成果

解析を進めた結果、以下の3つの重要な点が明らかとなりました。

悪天候が歩数に与える影響

寒冷、猛暑、降雨、積雪、強風といった悪天候下においては、いずれの場合においても基準日と比較して歩数が少なくなることが明確に示されました。

ショッピングモール訪問と悪天候の相互作用

ショッピングモール訪問に伴う歩数の増加は、総合的に見て悪天候による歩数の減少を上回っていました。これは、悪天候時においてもショッピングモール内での歩行が促進されることに加えて、ショッピングモールまでの移動や、ショッピングモール外の目的地への立ち寄りを通じて歩行が増進された可能性が考えられます。

ショッピングモール訪問と悪天候、属性の相互作用

安全で快適な屋内歩行環境の確保は、悪天候の影響を受けやすい傾向にある高齢者や非都市部に居住する人々の歩数維持に対して、有効である可能性が示唆されました。

今後の展望と社会的意義

ショッピングモールは暑熱避難施設としての機能だけではなく、猛暑による歩数減少を抑制する効果がある可能性が示されました。さらに、寒冷、降雨、積雪、強風といった他の悪天候条件下においても同様の効果が確認されています。

ショッピングモールのように誰もが利用でき、悪天候の影響を受けにくい環境は、身体活動の維持・増進に貢献する場として、気候変動への適応が求められる今後のまちづくりにおいて、重要な役割を担うことが期待されます。加えて、図書館、公民館、市民センターなどショッピングモール以外の暑熱避難施設においても同様の効果が得られるかどうか、今後検証していく必要があります。

用語の解説

ショッピングモールについて

本研究における日本国内のイオンモールのうち、アプリの「モールウォーキング」機能を利用できる144店舗を指します。その他の大型商業施設やアーケード付き商店街などは含まれていません。

暑熱避難施設(クーリングシェルター/クーリングセンター)について

極端な暑さ(猛暑)時に、住民が涼しく安全に過ごせるよう開放される冷房の効いた屋内施設のことを指します。

等価所得について

世帯の生活水準を適切に評価(世帯規模の違いを考慮して等価に)するために、世帯の所得を世帯人数の平方根で割って算出される所得のことです。

マルチレベル線形回帰分析について

個人が地域・学校などの集団に入れ子状に属する階層構造データを扱うための回帰分析手法のことです。

交互作用について

2つの要因が組み合わさった時に、一方の要因の影響が、他方の要因の違いによって変化する現象のことです。本研究ではショッピングモール訪問と歩数の関連が、天候によって異なるかが検討されました。

研究プロジェクトの実施体制

本研究は、JSPS科研費(22K04450、22K21138、23K16349)、内閣府「地域中核大学イノベーション創出環境強化事業」、イオンモール株式会社との共同研究費などの助成を受けて実施されました。

論文情報

タイトル:Examination of How Mall Visits Moderate the Impact of Adverse Weather on Daily Step Counts: A Multilevel Analysis Using Nationwide Data from a Smartphone Application.

著者:Hiroaki Yoshida, Yoko Matsuoka, Masamichi Hanazato

雑誌:Journal of Urban Health

DOI:10.1007/s11524-025-01031-5

参考文献

参考文献1

タイトル:Weather associations with physical activity, sedentary behaviour and sleep patterns of Australian adults: a longitudinal study with implications for climate change

雑誌:International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity

DOI:10.1186/s12966-023-01414-4

参考文献2

タイトル:Association of daily step count and step intensity with mortality among US adults

雑誌:JAMA

DOI:10.1001/jama.2020.1382

参考文献3

タイトル:Association of daily step count and intensity with incident dementia in 78 430 adults living in the UK

雑誌:JAMA neurology

DOI:10.1001/jamaneurol.2022.2672

参考文献4

タイトル:Social epidemiology of Fitbit daily steps in early adolescence

雑誌:Pediatric Research

DOI:10.1038/s41390-023-02700-4

参考文献5

タイトル:Sociodemographic determinants of pedometer-determined physical activity among Japanese adults

雑誌:American Journal of Preventive Medicine

DOI:10.1016/j.amepre.2010.12.023

出典元:国立大学法人千葉大学 プレスリリース

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