
Rokt合同会社 ビジネス開発 久保 信輝さん(写真:右)
国内最大級のデリバリーサービスを展開する「出前館」は、2024年から広告事業に本格的に参入。広告事業を推進していく一環としてRokt合同会社(以下、Rokt)と提携。注文完了後のサンクスページを活用し、AI・機械学習により関連性の高い広告を表示することで、新たな収益源を得ることができるRokt Thanksを導入しました。
Roktの導入における背景や決め手、導入したことによる成果、今後の展望について、株式会社出前館(以下、出前館)の広告事業責任者である大枝千鶴さんに伺いました。
※本記事の内容は、2025年3月時点の情報に基づいています。
この記事の目次
日本のデリバリー市場の可能性、そのなかでの広告の役割
――はじめに、出前館さんから見た現在のデリバリー市場の動向についてお聞かせください。
大枝さん:コロナ禍を機にフードデリバリーの認知度が一気に高まり、出前館としても売上を拡大することができました。現在は利用が一定の水準に落ち着き、フードデリバリーが生活の一部として定着しつつあると感じます。
しかし、諸外国と比較すると、日本ではフードデリバリーの文化にまだ成長の余地があり、これからが本格的な発展のフェーズだと考えています。ユーザーにとって、フードデリバリーは店舗で購入するよりもプレミアムな「ちょっと贅沢な選択肢」としての側面が強く、日常的に利用するイメージはまだ浸透していないのが現状です。
今後の市場の課題は、フードデリバリーをどこまで気軽に、よりお得に利用できるようにするか。その実現に向けて取り組むことが、私達の使命であると認識しています。
――出前館さんにとっての広告事業の役割とはどのようなものですか?
大枝さん:弊社を含め、プラットフォーマーにとって、本業と並行して広告事業で収益を確保することは、一般的な経営戦略の一つです。また、出前館はLINEヤフーのグループ企業であり、プラットフォーマーとしてサービスを提供しながら広告収益を確保するビジネスモデルを受け継いでいます。
弊社で広告事業が本格的に立ち上がったのは2024年です。私が出前館に参画した当初、広告の売上はゼロでしたが、もともとGMV(流通取引総額。プラットフォーム上で行われたすべての取引の合計額)の一定割合を広告収益で構成すべきだと考えていました。そして、2024年に入り、ようやくそのためのリソースを投入し、具体的な検討を進められるようになったのです。
出前館ならではの広告戦略と注文完了ページの活用
――広告事業の体制ができつつあるなかで、事業を進めるうえで直面した課題と、その対応について教えてください。

大枝さん:弊社の広告事業は、出前館に掲載されている飲食店などの加盟店が広告を活用して自店を宣伝するマーチャント領域と、加盟店以外の企業が広告を出稿するノンマーチャント領域に分かれています。今回、Roktと提携させていただいていたのは、ノンマーチャントの領域です。
まず、マーチャント領域では、加盟店に対し、売上向上の手段として広告を活用し、宣伝することの重要性を理解してもらう必要がありました。
競合サービスと比較すると、弊社は営業人員を多く配置し、加盟店との密接な関係性を重視するスタンスを取っています。広告について営業活動を積極的に行い、加盟店に対して戦略的に提案してきました。また、広告設定を簡単に行えるよう工夫し、その結果、広告事業の立ち上げ直後から売上目標を大きく上回る成果を上げることができています。
一方で、ノンマーチャント領域では、広告事業を強化しながらも、本業であるデリバリーの注文数をしっかり伸ばすことが重要だと考えていました。
EC・物販、特に高額な商材では、一般的にユーザーは複数のサイトやページ、商品を比較し、何時間あるいは何日も悩んでから購入を決断するため、コンバージョンまでのリードタイムが長くなりがちです。しかし、フードデリバリーは、ユーザーが空腹を感じたタイミングでアプリを開き、そのまま注文をするため、コンバージョンまでそれほど時間がかかりません。弊社のデータでは、平均のコンバージョンタイムは数分です。
そのため、フードデリバリーのサイトでは、注文をスムーズに確定できるよう、直感的に操作できることが求められます。このユーザー体験を妨げないことが、一つの大きなテーマでした。例えば、料理を選んでいる最中に広告が煩わしく感じられたり、広告をクリックした際に元のページへスムーズに戻れなくなったりするような状況が発生しないよう、十分に配慮することが求められます。
注文完了ページであれば、注文確定のアクションを妨げることなく、広告枠を組み込むことができると考えました。
出前館は注文件数が非常に多く、注文完了ページのインプレッションも1日あたり数十万回に達します。さらに、通常のECでは、注文完了ページは表示されたらすぐ閉じられることが一般的です。そのため、注文1件につき1インプレッションしか発生しません。しかし出前館の注文完了ページには、お届け予定時間や注文のステータスが表示されており、随時更新されるため、ユーザーは注文完了ページを閉じずにとどまったり、何度も確認したりします。この特徴を生かし、出前館ならではの価値を提供できると考えたのです。
自前かDSP系サービスか?プロダクト検討の基準
――注文完了ページに広告を導入するうえで、どんな選択肢があったのでしょうか?

大枝さん:具体的には複数の企業を検討しましたが、大きく分けると、Rokt以外に2つの選択肢がありました。
1つ目は、自前で運用する方法です。自社で営業を行い、掲載スケジュールを管理し、広告設定画面などを開発する。完全にコントロールできる点や、マージンがかからない点はメリットですが、結構なリソースが必要なことが課題でした。
私は前職でもメディア運営に携わっていたため、自社で運用する難しさは十分に理解していました。また、出前館の本業はデリバリーサービスであり、広告事業は現時点では副業的な立ち位置です。そのため、この事業専用に営業担当やオペレーター、エンジニアを抱えるのは現実的ではないと判断しました。
2つ目は、DSP系のサービスの利用です。複数の広告主が出稿し、広告がパーソナライズされて配信する仕組みですが、最大の懸念点は「何が表示されるかわからない」ということでした。
出前館のユーザーは食事を注文するためにサイトやアプリを利用しており、そこで食欲を損なうような広告が表示されることは避けるべきです。たとえば、薬事法に抵触する恐れのある表現を使用したバナー、地肌のアップ画像、ダイエット訴求の広告などは望ましくありません。広告枠を設置する際に、内容を完全に管理できないことは、大きなリスクだと感じていました。
「Rokt Thanks」導入の決め手は「工数対効果」と広告ジャンルの選択
――Roktが提供する「Rokt Thanks」導入の決め手となったのはどのようなところですか?
大枝さん:他の2つの選択肢の懸念点を解消できると考えたからです。
まず、「Rokt Thanks」を活用すれば、自社運用のようなリソースは不要で、導入のためのコストが一切かかりませんでした。社内で検討を進める際、各選択肢の工数を比較したところ、「Rokt Thanks」の導入にかかる工数が圧倒的に少なかったのです。
広告運用では「費用対効果」という指標がよく使われますが、プロダクト選定の際に社内外で議論していたのは「工数対効果」でした。「Rokt Thanks」は、導入や運用にかける工数に対して得られる効果が非常に高いですね。プログラミングは不要で、タグを設置するだけ。運用後もバグチェックのみで、スケジュール管理やバナー設定は一切不要です。当然ながら、営業活動も不要。このシンプルな運用フローは、広告事業、特にノンマーチャント領域の広告事業が副業的な立ち位置にある出前館にとって最適な選択肢でした。
また、DSP系サービスの懸念点も解消できると考えました。「Rokt Thanks」は広告主を厳選しており、さらに掲載する広告ジャンルを細かく選定可能です。許可したジャンル以外の広告は表示されず、現状はテキストのみのため、食欲を損なうような画像が表示されるリスクもほぼゼロ。この点が導入の決め手となりました。私が調査した限り、これを実現できるプロダクトはRoktだけでした。

「Rokt Thanks」導入後は十分な実績、ネガティブなクレームは0件
――「Rokt Thaks」導入後、収益の目標や期待に対して、実際の変化はどうだったのでしょうか。
大枝さん:ベンチマークしていた同業他社のeCPM(広告が1,000回表示されるごとに発生する収益)を目標にしていたのですが、最初は思ったように数字が伸びませんでした。
ただ、ほとんど工数をかけていなかったので、特に問題視していませんでした。それでも、そのままにせず、Roktが真摯に提案をしてくださり、それに応じた改善を進めていくと、数字が確実に向上し、最終的には満足できる実績につながりました。ほとんど工数をかけずに、毎月これだけの成果が出るのであれば、非常にありがたいと感じています。
――ユーザー体験に関して、お客様からネガティブな反応などはありましたか。
大枝さん:最も懸念していたのは、広告が注文の邪魔になることや、広告をクリックしたことで注文完了ページに戻りにくくなることでした。導入にあたっては、ユーザー体験を損なわないよう慎重に設計しました。また、導入後にユーザーの不満が発生していないかを確認するため、カスタマーエクスペリエンスのチームに対し、広告に関するネガティブなユーザーボイスがあれば全件報告するよう依頼しました。
結果として、これまでに広告に関するクレームは1件も発生していません。むしろクリック率が高く、ユーザーの関心を引いていることがわかりました。
小さな改善の積み重ねが確実に効果を生む
――収益のさらなる向上など、改善のためにRoktと取り組まれたことはありますか?

大枝さん:工数が少ない分、クリエイティブの自由度はそれほど高くないと認識していました。しかし、その中でもフォントサイズやボタンの配置、広告を見たくないユーザーをもとに類似ユーザーへの広告配信制限を機械学習で行うなど、細かいチューニングが可能でした。
これらの要素を少しずつ最適化し、ABテストを繰り返した結果、eCPMが導入当初から約5倍に向上しました。小さな改善の積み重ねが、大きな成果につながることを実感しました。
――今後Roktに期待すること、新たに取り組んでいきたいことは何ですか?
大枝さん:今後も、細かな改善を積み重ねながら、Roktとともに最適な広告運用を追求していきたいと考えています。また、「Rokt Thanks」のアップデートによって新たに活用できる機能があれば、積極的に挑戦していきたいですね。
▼Roktのソリューション・製品はこちら
https://www.rokt.jp/
ー取材内容は動画でもご覧いただけますー
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