株式会社Nintは、国内有数のECモールに関する市場動向を分析する専門ツール「Nint ECommerce」を提供しています。この度、同社は経済産業省が公表した「令和5年度電子商取引に関する市場調査」のマクロデータと、楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングに関連するミクロデータを基に、日本のEC市場、特に物販系分野の調査結果を発表しました。

■調査の主な結果

調査によると、日本のEC市場は全体的に成長しており、各ジャンルでは異なる動向や課題が明らかになりました。2023年には、企業による価格引き上げ、送料の上昇、異常気象、新型コロナウイルスの感染症が5類に移行したことなど、さまざまな要因が市場に影響しています。

消費者の購買行動が変化しており、特定ジャンルではポジティブな要素と逆風が同時に見られます。例えば、外出機会の増加によりファッションや化粧品の需要が高まった一方、在宅関連商品は減少傾向にあります。このような複雑な市場環境が浮かび上がります。

加えて、コロナ禍で購入した耐久財、特に家具の買い替えニーズが将来的に顕在化する可能性があり、耐久財の需要サイクルを見据えた長期的な戦略が求められています。

中小規模のEC事業者は、熾烈な競争とコスト上昇への適切な対応が急務です。物流費の増加やプラットフォーム手数料が利益を圧迫しているため、企業戦略の見直しが必要です。独自の付加価値を提供し、価格以外で差別化する姿勢が求められています。

Nintは、データに基づくインサイトを提供し、企業の意思決定を支援します。日本のEC市場の流通額の70%をカバーする主要モールの市場データを基に、需要の高い商品やジャンルに特化したアプローチを推進します。

今後も市場動向を注視し、データに基づいた柔軟な戦略がEC業界の成功の鍵となると考えています。企業が迅速かつ正確に対応することで、持続可能な成長が見込めます。

1. はじめに

本調査レポートでは、経済産業省の「令和5年度電子商取引に関する市場調査」に基づくマクロデータと、Nintが保有する楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングのミクロデータを活用し、日本のEC市場の詳細な分析を行います。

これらのデータは、日本のEC市場の全体像を把握するのに加え、各ジャンルの動向を見極める手助けとなります。主要ジャンルごとの売上上位商品や特徴、消費者行動の変化を探り、業界全体の課題や今後の展望についても考察します。

2023年には、新型コロナウイルス感染症の5類への移行、商品の価格引き上げ、送料の上昇など、経営環境に大きな影響を与えた要因が分析対象となります。

2. 日本のEC市場全体の状況

経済産業省が2024年9月に発表した「令和5年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によれば、2023年の物販分野の市場規模は約14.7兆円で、前年比4.8%の増加を示しています。また、EC化率は9.38%で前年から0.25ポイントの上昇を記録しています。これはインターネットを介した商取引の電子化の進展を示す重要な指標です。

Nintの推計によると、3大モールの流通総額は約10.1兆円に達し、物販分野全体の約69%を占めることがわかりました。この3大モールは前年比5.9%の成長を見せており、EC市場全体の成長を牽引しています。

2023年5月には新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、EC分野に様々な影響を及ぼしました。消費者の購買行動が変化し、市場動向に直接影響を与えています。経済産業省のデータによると、全ての分類で前年比プラスが確認されており、Nintの推計データにより3大モールでの流通額の増加が数量によるものか平均単価によるものかを詳細に分析することができます。

例えば、3大モールの全体平均単価は2022年の3,223円から2023年には3,370円に増加し、増加率は4.5%です。全体の流通額の成長率は5.9%であり、数量の増加率はわずか1.3%であることから、平均単価の上昇が主因とされています。

表1:3大モールにおける標準ジャンル比較表

Nintでは、経済産業省の分類に基づく共通ジャンル分類を使用し、市場規模や動向をより正確に理解しています。

3. 主なジャンル別の市場分析

3-1 生活家電、AV機器、PC・周辺機器など

経済産業省の調査によると、このジャンルにおける2023年のBtoC-EC市場は約2兆6,838億円で、前年比5.13%の増加が見られました。EC化率は42.88%と、物販系の中でも特に進行が目立つカテゴリーの一つです。

人々の外出が増えるにつれ、在宅時間が減少し、生活家電商品の需要は弱まる一方で、高価格帯の商品へのニーズが増加しています。プレミアム家電や最新技術の導入が見られる製品が好まれる傾向があります。

Nintの推計によれば、3大ECモールの流通金額は前年比104.1%の成長を示しており、特に平均単価の上昇(前年比105.4%)がこの成長を牽引しています。

売上上位のサブジャンルは生活家電、ゲーム機器、健康関連商品であり、ワイヤレスイヤフォンや多機能プロジェクターが高い売上を上げているデータも確認されています。

3-2 アパレル・服飾雑貨

経済産業省のデータによると、「衣類、服飾雑貨」のBtoC-EC市場は約2兆6,712億円で、前年比4.76%の増加を示しています。また、EC化率は22.88%を維持しています。売上内訳で見ると、アウターウェアが約50%を占めており、続いて靴、鞄、宝飾品がランクインしています。

2023年には、オムニチャネルの拡大や物価上昇、送料の引き上げなど多くの要因がアパレルEC事業者に影響を及ぼしています。

Nintのデータでは、3大ECモールでの流通金額が前年と比べ119.1%の増加を示し、数量も113.9%の増加がこの成長を支えています。

特に男性向け衣類、特に高機能のランニングシューズ(1万円以上)が注目されており、売上が高いことがわかっています。

3-3 食品、飲料、アルコール類

経済産業省の調査によれば、この分野のBtoC-EC市場は約2兆9,299億円で、前年比6.52%の増加を示しています。EC化率は4.29%と他のジャンルと比べて低いですが、ネットスーパーや食品デリバリーサービスの普及によって市場は拡大しています。

Nintのデータでの流通金額の増加(前年比104.6%)は、平均単価の上昇(前年比109.1%)によって支えられています。

主にミネラルウォーターやお茶、炭酸水などが上位を占め、ナショナルブランドのビールも人気です。

3-4 化粧品、医薬品

「化粧品、医薬品」分野のBtoC-EC市場規模は約9,709億円で、前年比5.64%の増加が見られています。EC化率は8.57%に達しました。

2023年には、マスク規制の緩和や感染症分類の変更により化粧品全体の支出が増加、特にカラーコスメや香水の需要が回復しています。

医薬品分野でも、薬事法改正により一般用医薬品の扱い範囲が広がり、プラスとなっている状況です。

Nintの推計データによると、3大ECモールでの流通金額の増加(前年比104.8%)は、平均単価の上昇(前年比112.4%)が寄与しています。

3-5 生活雑貨、家具、インテリア

生活雑貨や家具、インテリアのBtoC-EC市場は約2兆4,721億円で、前年比5.01%の増加です。EC化率は31.54%と高い水準を維持しています。

2023年、日本の気温は過去最高を記録し、猛暑日が増加した結果、冷感寝具や冷却商品への需要が高まりました。また、在宅勤務の普及によりホームオフィス向けの家具やインテリア製品も需要が高い状況が続いています。

Nintの推計では、3大ECモールの流通金額は前年対比105.3%の増加を示しており、数量の増加(前年比105.4%)がこの上昇を支えていますが、平均単価は若干減少(前年比99.0%)しています。

4. 消費者行動の変化と平均単価の上昇

2023年、多くのジャンルで平均単価が上昇しており、高価格帯商品の需要が高まっています。メーカーによる価格引き上げやエネルギーコストの上昇が主な要因で、特に食品、化粧品、生活家電などの価格上昇が顕著です。

Nintの推計によれば、3大ECモールの全体平均単価は前年比104.5%になっています。各ジャンルの平均単価は105.4%から112.3%に達しており、市場のトレンドを裏付ける結果となっています。

また、特定モールの価格分布を2022年と2023年で比較すると、1000円、2000円、3000円の価格帯が左にシフトし、低単価帯商品の比率が減少していることがわかります。

図1:あるモールの2022年の価格分布(メッコチャート)
図2:あるモールの2023年の価格分布(メッコチャート)

価格の上昇という要素に加え、消費者の購買行動の変化も影響を及ぼしています。3大モールの消費者は品質や付加価値を重視する傾向が強まり、高価格の商品がランキングの上位を占めるようになっています。

季節ごとの売上動向からも消費者心理の変化が見受けられます。2023年の異常気象は、夏物商品の需要を刺激し、冷房機器や夏服、水分補給関連商品が好調を維持しています。消費者は季節や気候に敏感に反応し、必要商品を迅速に購入する行動が見られます。

5. 中小EC事業者の現状と課題

競争が厳しい中でコストの上昇が続き、利益圧迫が深刻化しています。2023年には、主要運送会社が送料を引き上げ、エネルギーコストの上昇が影響し、配送コストが増加しています。これにより中小事業者の経営はさらに困難な状況にあります。

Nintの見解によると、型番商品の取り扱いは以前ほど容易ではなくなってきており、価格競争が激化し利益率が低下しているため、中小事業者は独自の商品開発やサービスの差別化が求められています。

6. 3大ECモールの戦略と市場への影響

3大ECモールの流通額の増加は市場全体の成長を支える一方で、出店料や手数料の引き上げは中小事業者に深刻な影響を与えています。プラットフォーム手数料やサービスの改定が事業者の経営に直接的な影響を及ぼすため、戦略的に対応する必要があります。

商品の選定や複数の販売チャネルの活用によるリスク分散が重要です。また、自社ブランドの商品開発を進めることで付加価値を高め、利益率の改善も期待されます。

出典元:
・経済産業省「令和5年度電子商取引に関する市場調査」

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