
Z Venture Capital(ZVC)が、2026年の投資戦略として注目するテーマや領域を発表しました。2025年は同社にとって投資規模、地域展開、注力領域のすべてにおいて大きな進化を遂げた年となり、日本、韓国、米国を拠点に51社のスタートアップへ投資を実施し、300億円規模のZVC2号ファンドの始動、サンフランシスコ拠点の開設など、グローバルにスタートアップと伴走する体制を強化してきたとのことです。
今回は、各拠点で投資を担うメンバーが2026年に注目しているテーマや領域について語るコラムシリーズの初回として、日本拠点の投資戦略が紹介されています。

この記事の目次
AI Centric Economyの到来
過去15年ほど、テクノロジー業界では「Mobile First」という概念が前提として共有されてきました。スマートフォンを起点に、プロダクトの作り方やユーザー体験、産業構造そのものが変革されてきたことは明らかです。
現在、それと同等か、それ以上に大きな転換点に立っているとされています。インターネットの世界では、多くのブログ記事はAIによって作成・編集され、SNSのリプライもAIによる自動投稿で埋め尽くされています。TikTokやYouTubeでもAIで自動生成されたコンテンツを人々は疑いなく消費するようになってきました。これは単にAIをどう活用するかという話にとどまらず、経済をどう設計するか、その前提が書き換わり始めているとのことです。
経済活動を単純化すると、データや資源、文脈を受け取り、判断や推論、調整を経て、価値を生み出す流れとして捉えることができます。これまで多くの産業で制約となってきたのは、その中間にある「処理」の部分でした。資源やインフラの制約は常に存在してきましたが、成長や意思決定の速度を左右してきたのは、それらをどう使い、どう組み合わせるかという人間の処理能力だったと考えられています。
大規模言語モデルをはじめとするAIの進化は、この前提を揺さぶっています。知能を使うことのコスト構造は、人間を前提としたものではなくなりつつあります。処理能力の制約が消えたわけではありませんが、その重心は人間からシステム側へと移り始めているといいます。
AI Centric Economyを成立させる条件と注目領域
では、この「AI Centric Economy」は、どのような条件が揃えば現実の経済として成立するのでしょうか。
現在はいまだに「AIは道具だ」という発想にとどまっていますが、AI Nativeな時代を考えると、この前提自体を見直す必要があるとされています。AIが仕事を担い、人間は意図と責任を定義する。人が逐一操作しなくても、役務が完遂される設計が求められています。
これまでの社会や組織、制度やオペレーションは、人間の理解力や判断速度を前提に構築されてきました。AI Nativeな設計では、この前提そのものを置き換えます。状況の理解から判断、実行の多くをシステムが担い、人は結果や例外、そして方向性に向き合う形です。単なる自動化ではなく、意思決定と実行の重心を移すという発想だとされています。
この視点に立つと、サービスや産業の構造そのものを変革するチャンスが溢れています。AI Nativeな時代における、メディアとは何か、広告とは何か、エンターテインメントや商取引、教育、ソーシャル・ネットワーキングは、どのような形で成立するのか。こうした問いが、現在の思考の出発点になっているとのことです。
当然ながら、この変化は自然に立ち上がるものではありません。AIが経済主体として働くためには、AI自身が支払い、契約し、必要な計算資源やサービスを調達できる経済基盤と、その判断や出力が信頼できることを保証する仕組みが不可欠です。
その文脈で注目されているのが、Crypto・ブロックチェーンと、AIデータガバナンス・セキュリティの領域です。これらは流行的なテーマではなく、AIが自律的に経済活動を行うための前提インフラだと考えられています。
同社が見ているのは、業務をAIで効率化する会社というより、業務そのものをAIが担う前提で設計されている企業です。そして、その世界が成立するために必要になる、経済・信頼・責任の基盤を担うサービスには投資機会があると考えているとのことです。

B2B向けAgentic Commerceプラットフォームへの投資
コマース領域のトピックスを振り返ると、Amazonをはじめとする大手ECプラットフォーマーはこぞってAI機能を強化し、さらにOpenAIはChat GPT内でショッピングが完結できる機能を発表しました。コンシューマーにとって2025年は、AIエージェントが自律的に購買活動を行う「Agentic Commerce」の幕開けの年になったと考えられています。
また、B2Bの領域に目を向けると、いわゆる「SaaS is Dead」という言葉が示すように、AIエージェントはソフトウェア開発やカスタマーサービスに限らず、業務フロー全体を横断して機能し始めています。こうした動きが広がるにつれて、いずれB2Bの商品・サービスの流通や購買も、AI駆動で自動化・効率化される世界が来ると考えられています。
実際に、ZVCの支援先でも、卸売マーケットプレイスを提供する「goooods」や、外国人材のマッチングプラットフォームを提供する「Linc」は、生成AIを活用して顧客の業務効率化だけでなく、顧客のマッチングまで自動化・効率化することで大きな成長を遂げているとのことです。
こうした点から、2026年は業務効率化から流通・購買までを生成AIで一体的に自動化するB2B向けAgentic Commerceプラットフォームへ積極的に投資していく方針とされています。
国産AI・Physical AIへの注力
米国による関税措置の強化や、国際秩序の不安定化が進む中で、日本においても「戦略的自律性」や「経済レジリエンス」をいかに確保するかが、これまで以上に重要なテーマとなっています。
こうした背景の中、日本では、政府が重点投資対象として17分野を打ち出したことは象徴的です。日本が自ら産業を創出し、競争力を持つ領域を明確に定義し、そこに官民一体で資本と人材を集中させていく、今はまさに、その覚悟が問われる局面だと考えられています。
一方で、人類の働き方や生き方そのものを変えうる生成AIやロボティクスといった分野に目を向けると、最先端は米国や中国が牽引しているのが現状です。OpenAIやAnthropicに代表される大規模言語モデル(LLM)の領域では、勝者が固まりつつあるようにも見えますが、だからといって日本に勝ち筋が残されていないわけではないとされています。
その1つとして挙げられているのが「Physical AI」です。
ZVCは、2025年、国産の完全自動運転AIの実現を目指すTuringや、建設現場向けのSpatial AI基盤モデルを開発するZen Intelligenceへ投資を行ってきました。いずれも、日本の産業構造や現場特性に深く根ざし、Physical AIとして実世界に価値を実装していく挑戦を続けるスタートアップです。ハードウェアや現場と結びついた技術こそが、日本の産業競争力を次のステージへ引き上げると信じられているとのことです。
Physical AIは、日本の未来を形づくる基盤だと考えており、2026年は、引き続きローカルデータをベースとするAI基盤モデルに加えて、センシングを含むロボティクス技術、サイバーセキュリティの領域へ投資していく方針とされています。

日本IPの価値の最大化を目指す
「創る」以外の勝ち筋をつくることが重要だとされています。
日本のアニメやマンガ、ゲーム等を中心としたコンテンツは、海外での人気や消費規模という点では、世界トップクラスの存在感を持っています。一方で、その経済的価値が日本企業に十分還元されているかというと、決してそうとは言えません。
経済産業省の「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」によれば、日本コンテンツの海外売上のうち、日本企業に還元されている比率は6割弱にとどまっています。さらに、売上が計上されない海賊版流通などを含めれば、実質的な還元比率はより低い水準にあると考えられています。
背景には、海賊版の横行、海外プラットフォームによる市場の寡占、低い料率でのライセンスアウトなど、海外では価値が生まれているにもかかわらず、その対価の多くが日本に戻ってこない構造的な問題があります。巨額のデジタル貿易赤字が続く日本において、この構造を放置することは、産業としても国家としても大きな機会損失となります。
もちろん、新たなコンテンツやIPを生み出すスタートアップへの投資も極めて重要です。しかし同時に、すでに海外に存在している需要や熱量を、いかに日本の収益に結びつけ直すかという問いに挑むことが必要な局面になってきているとされています。
IPの価値を創出するだけでなく、回収まで含めて再設計できるようなスタートアップを、日本のエコシステム全体で支援していく必要があるとのことです。
生成AIネイティブデバイスへの期待
「操作するAI」から「そばにいるAI」への転換が進んでいます。
Chat GPTやGeminiの普及によって、AIを使うこと自体は当たり前になりつつあります。しかし、現在の多くのAIは、PC/スマートフォン上のアプリやブラウザの中に存在し、チャットなどのUIを通じて人が能動的に呼び出す存在にとどまっています。
そんな中で注目されているのは、生成AIを前提に設計された、いわゆる生成AIネイティブなデバイスです。
ここで重要なのは、単に新しいハードウェアを作ることやUIを変えることではありません。人の入力を待つのではなく、AIが常にそばに存在し、マルチモーダルに状況や文脈を理解したうえで、人の行動に自然に介在する体験を設計することが重要だと考えられています。
この領域はグローバルで見ても、まだ明確な勝ち筋が定まっていないとのことです。ソフトウェア単体でも、ハードウェア単体でもなく、体験まで含めて設計するという視点が求められる、極めて空白の大きいテーマです。生成AI時代の「当たり前」を一緒に定義しにいく起業家との対話を求めているとされています。
出典元:Z Venture Capital株式会社 プレスリリース













