
所有物を二次流通に出すことが、新たな購買意欲へつながる「対流消費」が顕在化してきています。博報堂生活総合研究所の調査によると、「ものを手放すと、新たなものが欲しくなる(+9.6pt)」「ものが中古品として売れると、その売上金で買い物をしたくなる(+9.2pt)」という消費意識が6年間で大きく増加しているとのことです。
博報堂生活総合研究所では、生活者の消費に対する意識や価値観の変化を把握するために、2019年から6年ぶりとなる「消費調査」を実施したと発表しています。インターネットやSNSを中心とした情報量の増大、フリマアプリや中古ショップなどの二次流通市場の拡大・浸透が続く中で、調査結果からは注目すべき消費行動の変化が明らかになっているようです。
特に顕著なのは、所有物を二次流通で売ることで新たな購買意欲が生まれたり、他者の消費行為が自分の欲求を代替したり、購買スタイルに影響を与えていることだといいます。「売ると買う」や「自分と他者」がつながり、新しい消費欲求が生まれて循環していく現代の消費スタイルを、博報堂生活総合研究所では「対流消費」と名づけています。
この記事の目次
消費意識 2019年 vs 2025年 差分ランキングTOP5
「売る・あげる」についての消費意識では、19年と25年のスコアの差分ランキングTOP5を見ると、1位は「ものを手放すと、新たなものが欲しくなる(19年42.2%→25年51.8%)」、2位は「ものが中古品として売れると、その売上金で買い物をしたくなる(19年40.1%→25年49.3%)」となっており、これらが6年前から大きく増加していることがわかります。ものを手放すことによって新たな購入意欲が高まる生活者が半数近くに増加しているのです。
また、ランキング5位の「ものを譲ったり売ったりすることで人から感謝されたい(19年30.5%→25年37.9%)」など、単にものを手放すだけではなく、その先にいる他者の存在にまで意識を向ける生活者が増えている傾向も見られるとのことです。
一方、「買う」についての消費意識では、1位は「他人のSNS投稿を見ると、買いたい気持ちが高まる(19年26.0%→25年37.2%)」、2位は「実際に買わなくても、誰かが投稿した写真や動画を見るだけで欲しい気持ちが満たされる(19年19.4%→25年30.2%)」でした。5位には「プレゼントなど誰かのための買い物をすることで、自分の欲しい気持ちが満たされる(19年34.2%→25年43.1%)」がランクインしており、他者の購買情報に触れることで、自分自身が体験したかのような満足感を得る生活者が以前より増加していることがうかがえます。
さらに注目すべきは、4位の「自分の気に入ったものより、フリマアプリや中古ショップなどでの取引価格が高いものを買う(19年14.0%→25年23.0%)」などの項目です。二次流通市場の拡大・浸透によって、自分の欲求を満たすためだけでなく、将来的な売却価値を考慮して商品を選ぶ人が増えており、購入時の選択基準にも変化が生じていることがわかります。
【売る・あげる】若者の特徴
若者(10-20代)の消費意識には、全体と比較して特徴的な傾向が見られるとのことです。2025年単年のスコアで、若者の方が全体より特に高くなっている項目としては、「ものを捨てることなく誰かにもらってもらえるとうれしい(全体 42.8%、若者 66.5%)」「ものを手放す時には、大切にしてくれる人に売ったりあげたりしたい(全体 46.5%、若者 65.4%)」「買ったものの価値が下がらないようにものを大事に扱う(全体 29.6%、若者 57.9%)」「売る時のことを考えて購入時の箱や袋をとっておく(全体 27.2%、若者 47.7%)」などが挙げられています。
これらのデータから、所有物を手放す際に単に捨てるのではなく、他者に使ってもらいたいという意識や、購入品を使用する際に将来売却することまで視野に入れた行動をとっている人が、若者層で特に多いことがわかります。
また、2019年との差分で全体より若者の変化が大きい項目としては、「ものの売り買いを通して、社会との接点を感じられるとうれしい(全体 +7.0pt、若者 +12.2pt)」「ものの売り買いを通して、相手とやりとりすることが楽しい(全体 +7.1pt、若者 +11.6pt)」「ものを誰かに譲ったり売ったりすることで人に感謝されたい(全体 +7.4pt、若者 +11.4pt)」などが挙げられています。これらのデータから、物の売買を通じた他者との交流や社会とのつながりの重要度が、若者層においてより高まっていることがうかがえます。
さらに「買ったものの箱やタグ、レシートなどを捨てずにとっておく(全体 +6.9pt、若者 +11.6pt)」も全体の差分と比べて増加幅が大きくなっており、将来の売却を見据えた所有の仕方が若者の間で広がっていることを示しています。

【買う】若者の特徴
購買行動に関しては、2025年単年のスコアで全般的に若者(10-20代)の方が全体より高い傾向が見られ、買うことに対する意識の高さがうかがえるとのことです。特に目立つのは、「他人のSNS投稿を見ると買いたい気持ちが高まる(全体 37.2%、若者 59.1%)」や「実際に買わなくても、誰かが投稿した写真や動画を見るだけで欲しい気持ちが満たされる(全体 30.2%、若者 45.9%)」などの項目で、若者と全体のスコア差が大きくなっています。
これらのデータから、SNS上で他者の購入品や消費行動に関する情報に触れることで、自分自身の欲求が左右される傾向が若者層で特に強いことがわかります。言わば、他者の消費行動を通じて代理的な満足感を得たり、購買意欲が刺激されたりする現象が若者層で顕著に見られるのです。
2019年との差分を見ても、若者の方が全体よりも変化の幅が大きい項目が多く見られるそうです。特に「ネットでの買い物で、欲しいものリストや買い物カゴにいれただけで買った気持ちになる(全体 +10.5pt、若者 +15.6pt)」「実際に買わなくても、誰かが投稿した写真や動画を見るだけで欲しい気持ちが満たされる(全体 +10.8pt、若者 +15.3pt)」「自分の気に入ったものよりフリマアプリや中古ショップなどで取引価格が高いものを買う(全体 +9.0pt、若者 +14.7pt)」などの項目で差分が大きくなっています。
これらの経年変化から、他者の消費行動に影響を受けたり、実際の購入に至らなくても満足感を得たり、将来の売却価値を考慮して商品を選んだりする若者が増加していることが明らかになっています。このような消費意識の変化は、SNSの普及やフリマアプリなどの二次流通市場の拡大・定着と密接に関連していると考えられます。

まとめ
今回の調査結果は、現代の消費行動が「モノを買って所有する」という従来の直線的なものから、「売る・買う」「自分・他者」が相互に影響し合い、循環する「対流消費」へと変化していることを示しています。特に若者層においては、この傾向がより顕著に表れており、SNSやフリマアプリなどのデジタルプラットフォームの普及と相まって、新たな消費文化が形成されつつあると言えるでしょう。
企業にとっては、このような消費意識の変化を理解し、「対流消費」を前提とした商品開発やマーケティング戦略の見直しが求められているとのことです。たとえば、商品の長期的な価値の維持や二次流通を見据えた設計、SNSでの話題性を考慮したコミュニケーション戦略などが重要になってくるでしょう。
また、消費者自身にとっても、単に「モノを所有する喜び」だけでなく、「モノを通じた他者とのつながり」や「循環型の消費スタイル」への意識が高まっていることは、より持続可能な消費社会への移行を示唆しているとも考えられます。
調査概要
【2025年調査】
調査地域:全国
調査手法:インターネット調査
調査対象:15-69歳の男女
調査人数:5,000人
調査時期:2025年3月21日~3月25日
企画分析:博報堂生活総合研究所
実査集計:QO株式会社(旧.株式会社H.Mマーケティングリサーチ)

【2019年調査】
調査地域:全国
調査手法:インターネット調査
調査対象:15-69歳の男女
調査人数:10,000人
調査時期:2019年5月28日~6月1日
企画分析:博報堂生活総合研究所
実査集計:株式会社 H.Mマーケティングリサーチ(現.QO株式会社)

出典元:博報堂生活総合研究所(株式会社博報堂)プレスリリース