株式会社帝国データバンク(以下、TDB)は、同社が保有する独自のリスク指標「倒産予測値」のデータを活用して、企業が直面する「リスク動向」について詳細な調査・分析を実施したことを発表しました。この分析により、2025年6月時点で高リスク企業は前回調査から1,592社増加し、12万8,552社に達していることが明らかになっています。
業種別の分析では『製造業』と『建設業』で半年前から高リスク企業が増加する一方、『小売業』や『運輸・通信業』では大幅な減少が見られているとのことです。市場からの高リスク企業の退場と、厳しい経営環境への対応が困難な企業のリスク顕在化が同時に進行している状況だと報告されています。
この記事の目次
倒産予測値による高リスク企業の実態
TDBが実施した今回の調査は、企業が1年以内に倒産する確率を10段階のグレードで表す指標「倒産予測値」を基にしています。この倒産予測値が算出可能な約147万社のうち、2025年6月時点でグレード8~10に該当する高リスク企業は全体の8.7%にあたる12万8,552社となり、2024年12月時点と比較して1,592社増加したことが報告されています。
倒産予測値とは、TDBが現地現認の信用調査と独自のネットワークから収集した変動情報などのビッグデータから、倒産に関係が深い要素に焦点を当て、独自の統計モデルにより算出したリスク指標です。G1~G10の10段階のグレードで設定されており、G1が最も倒産リスクが低く、G10が最もリスクが高いグレードとなっています。グレードが高いほど実際に倒産が発生する傾向にあるとのことです。
倒産件数は12年ぶりの高水準、高リスク企業も増加傾向
2025年上半期の倒産件数は5,003件(全国企業倒産集計 2025年上半期報)に達し、前年同期から116件増加したことが示されています。上半期の倒産件数としては2013年以来、12年ぶりに5,000件を超える高水準となっています。物価高騰、価格転嫁の難しさ、人手不足、後継者不足、ゼロゼロ融資の返済負担など様々な要因が影響し、特に小規模事業者の倒産が目立っていると分析されています。

TDBでは、2025年2月に続き、特にリスクが高い企業(グレード8~10)を「高リスク企業」と定義し、詳細な分析を行ったとのことです。2025年6月時点の高リスク企業は約147万社の分析対象企業のうち8.7%を占める12万8,552社となり、半年前の2024年12月時点(12万6,960社)と比較して1,592社増加しています。倒産件数が増加する中、潜在的なリスクを抱える企業も依然として多く存在する実態が浮き彫りになりました。
製造業が3万3,465社で最多、半年間で4,894社増加
業種大分類別の高リスク企業数を見ると、『製造業』が3万3,465社と最も多く、2024年12月と比較して4,894社増加していることが報告されています。次いで『建設業』が3万20社となり、1,203社増加しました。
一方、高リスク企業数が最も減少した業種は『小売業』(2万4,050社)で、2024年12月から2,414社減少しています。また『運輸・通信業』(1万359社)も1,704社減少するなど、業種によって明確な差が生じていることが明らかになっています。

業種をより細かく分析すると、高リスク企業数で最多となったのは「職別工事業」の1万4,510社です。次いで「総合工事業」(1万1,892社)が続き、高リスク企業数上位2業種はともに『建設業』が占めています。以下、「運輸業」(1万164社)のほか、業種大分類では減少傾向にある『小売業』の中でも、「飲食店」「飲食料品小売業」が高リスク企業数の上位に位置していることが示されています。
業種内の全企業に占める高リスク企業の割合(出現率)で見ると、「出版・印刷・同関連産業」が41.0%と最も高く、「飲食店」が38.3%、「皮革・同製品・毛皮製造業」が37.6%と続いていることが明らかになりました。これらの業種は全体平均の出現率8.7%と比較して4倍以上の高い水準となっており、特定業種への倒産リスクの集中が見られます。

総合工事業の高リスク企業が半年で1,107社増加
2024年12月と比較した高リスク企業数の変化を分析した結果、増加数が最も多かった業種は「総合工事業」で1,107社増(1万785社→1万1,892社)となったことが報告されています。次いで「食料品・飼料・飲料製造業」が1,008社増(5,865社→6,873社)、「出版・印刷・同関連産業」が694社増(4,089社→4,783社)と続き、製造業関連の業種が上位を占めています。
『建設業』については、2025年上半期の倒産件数が986件と過去10年で最多を記録したとのことです。以前から高齢化や人手不足などの構造的な問題を抱える中、資材価格や人件費の高騰が工事の採算性を悪化させ、倒産リスクが顕在化してきています。
また『製造業』においても、原材料やエネルギー価格の高騰、物流コストの上昇、賃上げ圧力という「三重苦」に直面しており、これらのコスト増加を製品価格に十分転嫁できない企業が収益悪化に陥り、高リスク企業に分類されるケースが増加していると分析されています。

運輸業の高リスク企業が1,664社減少、市場からの退場が進む
高リスク企業数が減少した業種を見ると、「運輸業」が1,664社減(1万1,828社→1万164社)と最も多く、「飲食料品小売業」が1,354社減(9,159社→7,805社)、「飲食店」が1,345社減(1万134社→8,789社)と続いていることが報告されています。
高リスク企業の減少については、もともと倒産リスクが高い企業が市場から退場したことが主な要因の一つと考えられています。この傾向を確認するため、TDBは減少企業数が多かった上位3業種について、2025年上半期に倒産した企業のうち、2024年12月時点で高リスク企業だった割合を分析しました。

全業種では倒産企業のうち高リスク企業が占める割合が41.0%だったのに対し、「運輸業」は73.3%、「飲食料品小売業」は76.6%、「飲食店」は69.2%と非常に高い傾向が見られたとのことです。これにより、市場から退場した企業の多くが高リスク企業であったことが確認され、業界内での淘汰が進んでいることが明らかになっています。
「運輸業」に関しては、2024年問題によるドライバーの労働時間規制の影響があり、仕事量は確保できても輸送能力の低下により売上・利益が減少する企業も存在していると指摘されています。燃料費や人件費の高騰、人手不足といった課題は依然として解消されておらず、競争力の低い企業が淘汰された結果として高リスク企業数が減少している状況です。業界全体の構造的な課題はまだ解決されていないと分析されています。

「飲食料品小売業」や「飲食店」については、コロナ禍で利用したゼロゼロ融資の返済が本格化する中、コスト上昇や人手不足に対応できない企業が倒産に至ったケースが多いと考えられています。その結果、市場からの退場が進み、残った企業は値上げやコスト削減などの経営改善策を講じて立て直しを図ったため、高リスク企業数が減少した可能性があるとTDBは分析しています。
長野県の高リスク企業出現率が14.9%で全国最高
都道府県別に高リスク企業の出現率を分析すると、「長野県」が14.9%(3,776社、2024年12月比206社増)と最も高い結果となったことが報告されています。次いで「栃木県」が14.0%(3,040社、同61社増)、「島根県」が13.5%(1,231社、同15社)と続いています。各県の高リスク企業の業種傾向を見ると、「長野県」と「栃木県」では建設業が上位を占め、「島根県」では飲食店が最も多くなっているとのことです。
一方、高リスク企業の出現率が低い都道府県としては、「奈良県」が3.4%と最も低く、「長崎県」が4.3%、「和歌山県」が5.1%という結果でした。地域によって高リスク企業の分布に大きな差が見られることが明らかになっています。

小規模企業が高リスク企業の大半を占める
売上高別に高リスク企業の構成比を分析すると、「1億円未満」が8万2,491社(構成比64.2%)、「1~10億円未満」が4万1,588社(同32.4%)と、「10億円未満」の企業で全体の96.6%を占めていることが報告されています。一方で、「50億円以上」の大企業でも435社が高リスク企業に該当しており、企業規模にかかわらずリスクが存在することが確認されました。
従業員数別の分析でも同様の傾向が見られ、「5人未満」が8万1,352社(同63.3%)と最も多く、「5人~10人未満」が2万1,035社(同16.4%)と続いています。高リスク企業は小規模企業が圧倒的多数を占めていることが明らかになりました。

今後の見通しと企業の対応策
2025年7月の倒産件数は今年最多の956件を記録し、2025年1-7月の累計は5,959件と昨年同期を152件上回っていることがTDBから報告されています。このような状況下で、倒産予備軍とも言える高リスク企業は2025年6月時点で12万8,552社に達し、2024年12月からの半年間で1,592社増加しました。
『建設業』では人手不足や資材価格の高止まりが構造的な問題として影響し続けており、特に小規模事業者は経営体力の限界に近づきつつあり、今後も倒産件数の増加が懸念されています。『製造業』ではコスト上昇分を価格に転嫁できる企業とできない企業の二極化が進み、特に価格交渉力の弱い中小企業は原材料費や人件費の上昇に苦しみ、倒産リスクが高まっているとのことです。一方で、新技術への投資やDX推進により生産性を向上させた企業は競争力を強化し、生き残る可能性が高まっていると分析されています。
高リスク企業が減少し市場の淘汰が進む「運輸業」や「飲食料品小売業」、「飲食店」においても楽観視はできないとTDBは指摘しています。「運輸業」では2024年問題によるドライバー不足や人件費高騰の影響が深刻化しており、運賃を適切に価格転嫁できない企業は経営難に陥る恐れがあります。「飲食料品小売業」や「飲食店」は、消費者の根強い節約志向を背景に値上げが困難な一方で、物価高や人件費高騰に直面しています。コロナ禍からの資金繰り改善が不十分な企業は、再び高リスク企業として浮上することが懸念されています。
米国との相互関税15%の影響、コロナ借換保証の返済本格化、物価高、人手不足など、当面は企業を取り巻く経営環境が好転する兆しは少ない状況だとTDBは分析しています。これらのリスク要因が複合的に作用することで、特に中小企業の倒産リスクは高まり続けると予想されています。
こうした状況を乗り切るため、TDBは企業にコスト構造の抜本的な見直しや適切な価格転嫁、ITの活用による生産性向上、そして人材確保・育成への投資が不可欠だと提言しています。また、経営状況が悪化する前の早期段階で事業再生支援スキームや外部専門家を活用し、変化に対応することが、厳しい環境を乗り越え持続的な経営を実現するための重要な戦略となるでしょう。
出典元: 株式会社帝国データバンク プレスリリース