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アパレルECの課題は本当に「サイズ」?
初めまして。株式会社Sally127(サリーワンツーセブン)の鳥巣彩乃と申します。
「アパレルのネットショッピングを利用する消費者の課題は何か?」と聞かれたとき、皆さんは何を一番最初に想像しますか?5秒考えてみてください。
…私の経験上、80%の方が「サイズ」に関する回答をされます。
「ネット通販の問題はサイズである」「サイズの課題解決こそが通販を伸ばす重要なファクターである」、よく聞く意見だと思います。もしこれが「真の顧客課題」であるならば、その解決策は「サイズを正確に、できるだけたくさんの箇所で表記すること」となります。確かに、ECサイトに掲載する“採寸”は、どんどん細かく厳密になり、皆さまも消費者に丁寧に提示・コミュニケーションしていることと思います。また最近では、バーチャル試着の一種で「自分の入力数値通りに膨らむアバター」も存在します。しかし、「サイズが理由」の返品は減っていません。それはなぜでしょうか?
この問いに対する答えに関係するため、私の自己紹介を少しさせてください。
私は2007年に日本女子大学を卒業しました。大学時代からバイト代の95%はお洋服に注ぎ込む若者で、就職は当然アパレル志望。そのために販売の現場で長期インターンをしていました。良い成績を残すもその後の就活が思うようにいかず「アパレル業界の課題をいつか解決できる人間になること」を目標に進路変更。厳しい業界へ行こうと決め、広告業界に入ります。
その後入社したリクルートでは事業計画の策定から営業マネージャーまで幅広く経験した他、新規事業コンテストRingのグランプリを獲得し社内ベンチャーを立上げました。その傍らで、リクルートの後輩とSally127を創業。日本で唯一の「アプリがいらないオンラインAR試着」技術開発に着手し、2023年4月にローンチしたばかりです。どうぞよろしくお願いいたします。
チャンスは「顧客課題」にあり
それでは本題に移りたいと思います。今回は「チャンスは「顧客課題」にあり」というテーマです。
4月5日〜7日東京ビッグサイトで行われた『ファッションDXエキスポ』に出展をしました。その際に、ある大手メーカーの管理職の方から私宛に「長年アパレル業界の人ですか?」と質問をいただきました。上記の経歴をお話しすると、「すごく納得します。アパレル業界は技術や品質へのこだわりには自信があるが、顧客の視点や課題に沿ってサービスを作るという視点が欠けているのではないか?と最近考えていました。紹介しているサービスは非常に消費者の目線が捉えられていてすごいね。異業種からの参入を歓迎します」というあたたかいお話をくださいました。
とても嬉しかった一方で正直、驚きもありました。というのも、私が仕事人として育ってきた環境の中で“成功した事業”は全て、「顧客の課題を解決しよう」とするシンプルなサービスであったからです。
例えば、就職情報媒体『リクナビ』が創刊したのは63年前。当時学生の就職先を選ぶ手段といえば学校の掲示板や教授推薦など限られたものでした。そんな「就職先を吟味して自由に選ぶことが難しいこと」を顧客課題とした『リクナビ』は、学生が自由に就職希望先にエントリーができる日本初の広告型求人情報誌です。同様に結婚情報誌『ゼクシィ』は、「画一的な結婚式に悩むカップル」に向けて、自由に結婚式場を選択できるように式場の情報を載せた広告型情報誌です。
また最近の新規事業である動画型予備校『スタディサプリ』は、「地域による教育格差」を顧客課題とし、その解消を目指して世界の果てまで最高の教育コンテンツを届けるために立ち上がりました。
できるだけ皆さんがご存じの事例をと思いまして、リクルートのことばかり書いて恐縮なのですが、私が育ったこの会社はそれくらい徹底して「顧客の課題」をよく知っていました。業務上の日常会話の中では当たり前のアジェンダであり、そこで捉えた顧客の課題を全力で解決しようとしていました。
皆さんの日々の事業活動ではいかがでしょうか?そうは言っても、「事業に育つ顧客の課題」を見つけよう!と思っても突然では難しいですよね。今日のサブタイトルは「アパレル業界の真の顧客課題を探そう」ということで、弊社実施の調査をもとに、事例をひとつ紹介します。
顧客課題という視点を持つには?
冒頭でお話ししたように、アパレルECの課題はサイズと多くの事業者が認識しており、ツールやシステムなどを活用して、サイズを消費者に丁寧に提示・コミュニケーションしていると思います。それにも関わらず、「サイズが理由」の返品が減っていないのはなぜでしょうか?
1消費者としての視点の重要性
実は私は1消費者として、以前から「通販の最大の課題はサイズ」という考えには懐疑的でした。というのも、(どんな洋服でも着こなせるわけではない、NOTモデル体型の)私が店舗で洋服を買う際に、意思決定に一番寄与にしていることはサイズではないからです。私に購入を促すファクターは、「可愛いかどうか、私が私を好きかどうか、私に合うかどうか」という“感情”です。皆さんもそうではないでしょうか。
また私が学生時代にアパレル販売員であったことを前述していますが、その経験からも確信していることがあります。それは、お客様が試着室の中で判断していることは「これを着た私はイケてるかどうか!?」なのです。イケてる!と思えば購入されるし、思わなければ購入しない。その判断は「サイズを正確に表示する」という手段だけでは成立しないのです。(皆さんも、そうですよね?)
この購入までの感情のプロセスは、ネット通販になるといきなり変化するでしょうか?答えはNOですよね。ネット通販になると突然サイズが第一優先事項に変わるわけはありません。つまりネット通販においても顧客の課題は「この服を着た私がイケてるかどうかがわからない」ことです。それを「サイズ」と言い切ってしまうことは、いささか乱暴で、顧客課題への認識が少しずれていることを実感いただけるかと思います。このままいくと課題への解決策自体も同様に少しずれてしまい、結局ドンピシャの解決ができないと言う構造です。
そんな話をすると、反論をいただくこともあります。「ネット通販で例えば、スキニージーンズを買うときはサイズが大事ですよね。それがわからないと購入できない。ということで、やはり課題はサイズではないでしょうか?」
…再び消費者として、皆さんご自身の経験を思い返してみてください。例えば1〜2センチずれたら入らないような、タイトなシルエットのお洋服を買う手段は、果たしてネット通販なのでしょうか?私のケースで申し上げると、そこまでサイズコンシャスなアイテムをネット通販で買おうと思いません。自宅に届いたジーンズがあと1センチのところで入らない(着られない)と嫌なので、店舗で購入します。
こちらも、皆さんも同じではないでしょうか?こう問いかけると多くの方は「確かに。そういう本当に繊細なアイテムはネット通販で買おう、という発想にそもそもならないですね…。」ということに気がつかれます。
ご自身が消費者の視点に立ち返れば気づくのに、ついつい提供側の視点に立ちすぎて、「なんとなくの顧客課題」を妄想し、それに捉われてしまっている証拠ではないでしょうか?
調査から見えた顧客課題のインサイト
ちなみに、「ネット通販におけるサイズ問題」のオチとして弊社調査を少しご紹介します。先ほど、ネット通販における顧客の課題は「イケてるかどうかがわからない」ことを紹介をしました。それをもう少し丁寧に説明をします。
私たちがじっくりと消費者にヒアリングをした調査の結果、「ネット通販における真の課題(不安)」は「イメージと違ったらどうしよう」という漠然としたものでした。では「イメージ」とは何を指すのでしょうか?ここが肝です。多数の消費者へのヒアリングの結果、イメージとは「3種類の言葉の重ね合わせ」であるという発見がありました。
具体的には、商品そのもののイメージ、着用シルエットのイメージ、そしてサイズのイメージの3つです。この3点において、自分が想像しているそれと合致しているかについて心配しています。合致していれば経験上私はイケてるはずだし、合致していなければイケているかどうかわからない。これが真の顧客課題です。(ここでは余談ですが、そのため弊社のオンライン試着サービスはこの3つを一気に解決するような設計になっています。ご興味いただけましたら最終段落からご覧ください。)
そして調査ではもうひとつの発見がありました。消費者は簡単に嘘をついているということ(!)。弊社調査の中では本当に多くの次のような発言が聞かれました。「ネット通販で購入して、家で着てみて“似合わないなあ”と思っても、返品の際は“サイズが合わない”と伝えている。その理由は、そう言わないと返品できない可能性が高いから。」(!)
このような背景から、皆さん(提供側としても消費者としても)、「ネット通販の課題はサイズ!」と表面だけを捉えてしまうのでしょう。
まとめ:"評論家の目線"ではなく消費者視点で真の顧客課題の発見を
いかがでしたでしょうか。顧客課題の発見の仕方についてそのプロセスを少し体感いただけていれば幸いです。改めてお伝えしたいのは、インターネットで検索して出てくるような「顧客課題」は真の課題ではなくて、対象者にしっかりと、じっくりと話を聞いたり、または自分の消費者としての経験を思い返してみて、そこから顧客が言語化できていないことまで考えて考えて、初めて「真の顧客課題」が見えてきます。
例えば皆さんが日々対峙している顧客は、どんな課題を抱えているのか?少し時間をとって考えてみるのはいかがでしょうか。また例えば皆さんの近年の仕事の中で「顧客の課題を解決したぞ」と思うものを挙げてみるのも面白いかもしれません。(見つかったら、ぜひ私にも教えてください。)皆さんが、また会社が、消費者の視点を忘れ、課題の表面だけを捉えて最もらしい意見や解決策を言う“評論家の目線”になっていないか?そのために顧客に提供している解決策がずれていないか?、または見えてきた課題に新たなビジネスの機会がないか?、点検する機会になれば幸いです。
次回は、顧客課題を捉えて成功した例をリクルート以外の事例でご紹介します。
ここでご紹介した弊社調査資料の全容は、最終段落の弊社ホームページよりお気軽に資料請求くださいませ。
ちなみに、私が常々「正しくサイズを表示することだけではECサイトの購入率向上には解決にならない」発言している根拠が最近発表されました。この論文です。
参考:Virtual Fitting Room Effect: Moderating Role of Body Mass Index
要約すると、「体型が太めである消費者は、アバターで自分の体型を正しく表示するほどに購入しなくなる。」ということが書かれてるそうです。(すみません、私も全文は読めていないのですが要約を読みました。)こうして、アバターで表示をすることによりシルエットは正確になるかもしれません。しかし、一気に消滅してしまうことがあります。
前述の「可愛いかどうか、私が私を好きかどうか、私に合うかどうか」という“感情”です。人は自分の姿を客観的に見せられたいわけではありません。あくまでも自分の目で見た自分が大切です。他撮りより自撮り、スマートフォンはインカメラの方が圧倒的に支持されているこの状況を思えば、しっくりくる現象ではないでしょうか。おまけではありますが、これも「顧客の課題」の表面だけを捉えてしまった事例のひとつとして紹介します。
▼アプリがいらないオンライン試着
(株)Sally127 https://sally127.co.jp/
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